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世界の修正者 第二十九話『THE END』

 すっかり弱って変わり果てたミスと、ラサールが互いにゆっくりと歩み寄る。その様子を辰巳と松尾が静かに見守る。
 しかし、何か鋭利なものが突き刺さった生々しい音とともに二人の動きが止まった。それから間もなく、どこからかブザーのような警告音が鳴りだした。

「……ラサールさん?」
「まさか、刺されたんじゃないですか!?」
「え!?」
 異変に気が付いた辰巳と松尾がラサールに駆け寄り、慌ててミスから引き離した。
「ラサールさん、だい」
 辰巳がラサールに「大丈夫ですか!?」と叫ぼうとするが、思わず言葉が止まってしまった。ラサールの手に、悪魔が持つような禍々しい剣が握られていたからだ。どういうことかと戸惑いながら、ふとミスの方を見る。
「ぐ、うぅ……」
 ミスの胸には剣で貫かれたような痕が残っていた。そして、ラサールが「余計なことを」と呟く。
「え、刺されたのって、ラサールさんじゃなくて? ミスの方ですか?」
 疑問に思った松尾が禍々しい剣を回収して確認した。何かに気が付いたらしく、賢者に「……ま、まさか! 賢者君、ラサールさんを!」と指示を出した。その松尾の一言ですべてをくみ取ったらしい賢者が、ラサールに勢いよくぶつかった。光の玉の姿のままで何度も何度もラサールにぶつかる。
「え、え? 何が起こっているわけ!? 賢者は賢者で何をしているの!?」
「悪魔祓いです! ラサールさん……そういうことやったんですか! あなたがこれまで賢者の子供たちに狙われながらも取り込まれていなかったのは、悪魔……眞人がいたからなんですね!?」
「はははははははははは」
 ラサールがとても薄っぺらく笑う。その表情は、今までのラサールからは想像できないほどに歪んでいた。不気味な笑い声が止まった瞬間、ラサールの体から一気に黒いオーラが噴き出す。黒いオーラは性急に人の形を成す。いかにも薄情な言葉を紡ぎそうな口許。長く伸びた前髪が左目を隠している。それでもありありとわかってしまう、皮肉気たっぷりの笑顔。松尾にはおぼろげながら見覚えがあった。
「本当に、かなり久しぶりに見たような気分だよ」
「……亞久眞人、か。その名前、この世界では名乗っていないはずなんだがなぁ」
 それは間違いなく、かつてどこかの世界で『眞人』と名乗っていた『悪魔』だった。
「この英雄さんとやらの知っている世界ではそんな偽名を使っていたが」
「あいつが、悪魔? あんなやつにとりつかれていたなんて……ラサールさん、しっかりしてください!」
 辰巳が何度も呼びかけるが、ラサールは目を閉ざしたまま答えることなく、静かに呼吸をするだけだった。
「あぁ、そいつは心配ない。長く俺にとりつかれていたから、突然抜け出されて気を失っているだけだ……しかし松尾君、なかなかのご明察だな」
「そいつはどうも。もっと早くその可能性に気が付くべきだったとは思うけど。猶予はいくらでもあるはずだった。考えようと思えばその可能性ぐらい考えられたはずだったのに。もしそうしていれば、こんなことには……」
 苦しみ、うずくまるミスを見ながら松尾は唇を噛んだ。松尾とて、できるのならば敵だろうが味方だろうが命があった方がいいに決まっていた。今、無意味にミスが死にゆくことが悔しかった。ラサールも目覚めた時、きっと悔しい思いをするだろう。
「あぁ、そんなに自分を責めるな。君のせいじゃない。プライバシーにかかわるから誰とは言わないが、ある人間から俺は『なりそこないを抹殺してほしい』という願いを引き受けていてな。君が気づいた程度じゃあこの結末は変わらないよ。いわば運命だ!」
「なるほど……その願いを受けて、ラサールさんがいずれ必ずミスに近づくことを見抜いて、ラサールさんにとりついていたわけか。そして虎視眈々とミスを討ち取る時を狙っていた。ずいぶんと回りくどくて性格の悪い方法をとったな!」
「そうか、そういうことだったのか……可能性までは考えたが、そこまでは見抜けなかったな……」
 ミスがゆっくりと立ち上がり、剣を握る。そして悪魔に向き直ると、その剣を勢いよく投げつけた。しかし悪魔はふふんと笑いながらあっさりと交わした。
しかし、投げられた剣がさらに勢いを増して、一瞬で天空へと姿を消した瞬間、悪魔の表情が険しいものに変わった。そして、悪魔はミスの胸ぐらをつかんだ。
「ははは。悪魔、お前に、命はくれてやる。それだけのことをしてきたからな、妥当だ……けど、これだけは、悪魔なんかに、渡さない……約束が、あるから……ざまぁみろだ、ははは……!」
 満足げに笑いながら、ミスの身体が崩れ落ちる。
「ミス!」
「偽者君!」
 そしてその体は地面にたたきつけられた瞬間、はじけ飛ぶように光の粒となった。光の粒は天に昇らず、その場ですぅっと消えた。あまりにもあっけない終わり方に、辰巳と松尾は黙る事しかできなかった。
「終わって、しまった……」
「すべて、終わりましたね……」
『はい、何もかもが……』
「確かに、なりそこないのことは終わったな。しかし、興ざめだ」
 終末に呆然とする三人に、悪魔が口を挟んだ。「ん?」と松尾が首を傾げるが、悪魔は見向きもしない。そしてもう用はないと言わんばかりに、「じゃあ、いずれ」と言い残してその場から姿を消してしまった。

 取り残された二人はしばらく突っ立っているだけだったが、思い出したように松尾が切り出した。
「……この後、どうします?」
「あ、あぁ。とりあえずラサールさんを病院に連れて行くよ。あいつは気を失っているだけだって言っていたけど、念のためにね。松尾も行くか?」
「行きません。あ、車に運ぶんでしたらそこまでは手伝いますが」
「そうか、助かるよ。本物の賢者様は?」
『僕は、この神社に残らないと』
「わかった」
 賢者は光の玉の姿のままどこかへと飛び立った。賢者を見送った後、辰巳と松尾はラサールを二人がかりで車へと運んだ。そして辰巳は松尾を置いて車を走らせた。

 松尾は車を見送った後、帰ろうとせずに賢人神社に戻った。
「少し、ひっかかる言葉があったんだよね。けどこんなのわかったところで辰巳さんとラサールさんは巻き込めないよ。ラサールさんは寝ているし、辰巳さんはもうすぐ欠片が抜けて普通の人間になっちゃうし」
 神社を歩きながら、独り言を呟く。
「あの悪魔がね、「確かに、なりそこないのことは終わったな」なんて言っていた。それじゃあ、他の何かは終わっていないことになる。じゃあ何が終わっていないんだって考えると、一つだけ心当たりがあるんだよな」
 松尾の目的地は石舞台だった。
「ラサールさんが言っていたいつかの秋の事、『autumn fool』……この世界では、起きていないんだ。俺もろくに覚えていなかったけど、あの後頑張って記憶を引きずりだしたんだけど。どうも、愚者ってやつがが目覚めて、賢者の子供たちとやらを眠らせる事件らしいね……けど、この世界の愚者とやらはその時、どういうわけか目覚めていない。もしミスが生きていた頃にそんなことが起きていたら、最悪の事態が発生していただろうなぁ。完全に欠片にいいようにされちゃうじゃないか……それはともかく、だったらそれから長い月日が経った今、愚者が目覚めたとしてもおかしくないかもしれないってことだ」
 一段一段、階段をのぼる。
「だって、石舞台が壊れかけていたらしいからねぇ?」
 松尾が石舞台の階段を登り切った。真っ二つに割れた石舞台の中央では姿を取り戻した賢者と、いつか見たような気がする愚者が対峙していた。
「ほらね、やっぱり蘇っていたわけだ。それにしても水臭いなぁ賢者君。一人で挑むことないじゃないか。確かに誰かを巻き込みたくないという感情とか、どこかで頑張っている子供たちを眠らせるわけにはいかないとか、そういう焦りは理解するよ?」
 驚愕する賢者を横目に、袖口からナイフを取り出す。
「でも、だからこそいつかみたいに人間の力を借りればいい……例えば、超能力とか霊とか、徹底的に疑ってかかるような人間にねぇ!」
 取り出したナイフを愚者に向けて飛ばす。一本飛ばせば矢継ぎ早に二本、三本と飛ばしていく。愚者との思い出は完全に忘れたわけではない。それでも松尾は自分の事を覚えていない愚者に、情けをかけるつもりは全くなかった。
 そしてこの戦いの結末は史実には残らなくなる。

 神田智章は自宅の椅子に身をゆだね、目を閉じていた。智章の目の前に、突然気配が現れた。
「なりそこないは殺したよ」
 事務的に告げられた言葉に目を開く。目の前にいたのは悪魔だった。それを確認して智章は「そうか」と言葉をこぼす。悪魔の言葉を疑う気配はなく、どこか満足げであった。
 智章は携帯電話でメールを送る。携帯電話を机の上に置き、悪魔に向き直った。
「本当に、縛りつけて悪かったな」
「智章……本当にこれでよかったのか?」
「よかったさ。元々、そうなる運命だったからな。なりそこないは消え、俺は死ぬ。遅すぎたぐらいだ。なりそこないを消す……俺の命と引き換えにするにはとてもふさわしい願いだったろう? いつか出せなかった答えがこれだ」
 悪魔の問いかけに、智章はあっさりと返した。多少なりとも不安や未練を覗きたかった悪魔にとってはいささか不本意な答えだった。
「さぁ、願いの対価……持って行け」
 再び智章は眼を閉じた。悪魔は面白くなさそうに、それでも事務的に智章の胸に手を当てた。

 テレビ朝日のスタジオで何事もなく進んでいくクイズサバイバーに、賢人は逆に不安を覚えた。
(何も起こらない……)
 もし欠片を飲んだ人間が暴れだした時は、武器を持って抑える覚悟さえしていた。この世界を誰かが救うために敵の大半をここに縛りつけるためにと智章は考え、自分はそれを理解してここにいるはずだ。何も起こらなければそれでいいはずなのに不安になってしまう。
 不意にポケットの中身が震える。ポケットの中から携帯電話を取り出し、確認した。
(これは……!)
「うっ……!」
「ぐ、くぅ!」
 賢人が携帯電話の画面にくぎ付けになっていると、唐突に出演者の一人が苦しみはじめた。すると釣られるように、他の出演者も次々と苦しみだした。パッと見た印象では、芸能人側よりも、知識人側の方が苦しんでいる人数が多いような気がした。
「おい、どうしたんだ!?」
「ちょっと様子が変ですよ!」
「みなさん!? しっかりしてください!」
 くりぃむしちゅーと林が出演者のいる席に駆けよろうとした。
「林先生、近づいたら危ないですよ!」
 しかし、駆け寄ろうとした林を慌てて坂上が止めた。
「そうですよ、罠だったらどないするんですか!」
「確かに……林先生、離れた方がいいですよ!」
 欠片に飲まれていない人間たちも疑いを強め、苦しんでいる人たちから離れ始めた。
「わかっています……けど、いくら相手が欠片に飲まれていたとしても、苦しんでいる人を放っておけないんです、すみません! 皆さんは避難していていいですけど、僕はちょっと!」
「……ああもう! だから林先生ってのはぁ! とにかくスタッフさんもちょっと来てください! どっか皆さんを寝かせられるところないですか!?」
 坂上の叫びによってカメラが止められ、スタッフたちも駆け寄った。救護を呼ぶ声も聞こえた。
 しばらくして、苦しんでいた出演者たちの身体から黒い霧のようなものが噴き出した。黒い霧は天に昇るように消えていった。苦しんでいた出演者たちが落ち着き始める。
「あらっ……声が止んだわ」
 しばらくして出て来た宮崎の何気ない一言。それを皮切りに、他の出演者も自身の異変に気付き始めたようだった。
「本当だ!」
「聞こえないぞ!」
「どうなっているんだ……!?」
「……お前たちを支配していた、賢者を騙っていたやつが、死んだんだ」
 何が起こったのか、騒然とする現場に賢人がに入り込み、出演者に聞こえるように告げた。事情を知っているほとんどの人間は賢人の言葉に反応した。あちらの方にいる人間だけは新参者だからか、事情がわからず首を傾げているようだった。
「智章さんからメールが来たんだ」
「これは……! えー、カメラさん、映せますかね?」
 メールの中身を確認したくりぃむしちゅーの上田が、カメラマンに指示を出す。携帯電話の画面をカメラで映し、巨大なモニターに表示させた。
『なりそこないは英雄あるいは悪魔の手によって討たれた。あとはすべて賢人に任せる。智章』
「英雄、悪魔……?」
 林が必死に記憶を手繰り寄せる。そして、ラサールがどこかで『クイズ界の英雄』を自称していたことを思い出した。
(そうか、ラサールさんと賢者様がやってくれたんだ! もっとも、悪魔が誰の事だかわからないけど……)
「つまりこれって、どういうこと?」
「そうだなぁ。操っていた張本人が死んだってことはつまり、操られていた人たちもみんな元に戻れたってことじゃないか? どうなの?」
 上田が操られていたはずの人間に言葉を投げかけると、次々と肯定の言葉が返ってきた。操られていた人たちは皆歓喜しているが、そうではない人間たちの表情はどこか暗い。まだ納得できず、受け入れられない様子だった。自分たちが操られていないからこそ、操られていた人達のように確証が持てなかった。
「……皆に、頼みがある」
 賢人が一歩、前に出る。
「なりそこないに操られていた人たちは、洗脳が解けて早々大変かもしれない。そうじゃない人たちは、虫のいいことをって思うかもしれない。だが……クイズ番組の収録を続けて欲しい。頼む!」
 出演者に向け、深々と頭を下げた。
「このクイズ番組は……智章さんが作ったものだ。このクイズ番組を作った目的は……おそらく、欠片を飲み込んでいた人間の足止めだ」
 出演者たちがざわめく。
「……さっきのメールに出ていた英雄あるいは悪魔というやつが賢者を騙るなりそこないを倒す時間を作るために、このクイズ番組は作られたんだと思う。クイズ番組に出ていれば、さすがに操られていてもなりそこないのもとへ駆けつけることはできないはずだと踏んだんだろう」
「待ってください。それだったら操られた人間だけ呼べばよかったじゃないですか。何で欠片を飲んでいない俺たちまで呼ばれているんですか?」
 坂上が疑問を切り出すと、賢人は答えにくそうに、それでもはっきりと伝えようとした。
「なりそこないにも、その配下にも目的を悟られないと考えたのかもしれないな」
「つまり私達、利用されたの!?」
「俺たちも!?」
「私もですか!?」
「そんな危険な目に合わせて、何かあったらどうするつもりだったんだ!」
 出演者のほとんどの怒りが一瞬で賢人に向いた。しばらく賢人はその怒号をすべて受け止めていた。
「それでも! 全員を守り、ちゃんとクイズ番組として成立させるつもりでいた!」
 賢人がロッドケースをちらりと見る。そこには、いざという時は出演者を守るために武器にするつもりだったものが入っている。
「私は、お前たちが危機にさらされていることを知っていながら今まで何もできなかった。無力や公平性を言い訳に関わろうとしなかった……だから、せめて誰かが世界を救おうとしているならば、命をかけてその手助けをしたかったんだ!」
 声を荒らげ、出演者たちに訴えかける。誰もがここまで取り乱す賢人を初めて見た。
「そしてできるならば、何事もなくクイズ番組として終わらせたかった……だが、皆を危険に晒したのは事実だ」
 さらに一歩踏み出し、賢人は「すみません、でした」と頭を下げた。出演者の怒号が動揺の声に変わる。
「……賢人さん、顔をあげてください」
 宮崎が賢人に近づき、声を掛けた。
「確かにみんなを危険な目に合わせかけたのは事実だけどさ……俺は、しょうがなかったと思っていますよ? 俺は平気ですから」
 坂上も珍しく優しい声で語りかける。
「それよりも、これからどうするかじゃないですか?」
 林が促すように声を掛けた。
「僕、何がなんだかわからないですけど……クイズ、やりたいんです!」
 あちらの方にいた新宿カウボーイの石沢が叫んだ。純粋な願いに反応するかのように、賢人がゆっくりと顔を上げた。出演者たちの表情は、柔らかいものになっていた。
「みんな、知識人に勝ちたいかー! いままでいいようにしてきたやつらにリベンジしたいかー!」
『おー!』
「そう来ましたか。みなさん、我々の名誉を守るために戦いましょう! 今までの自分とは違うという事、見せつけたくないですか?」
『おー!』
「クイズサバイバー、いつやるか?」
『今でしょー!』
 それぞれのチームのリーダーが士気を高めた。やはりみんな、クイズがやりたかったのだ。すべてが終わった今こそ、やりたかった。
「……みんな、ありがとう」
 再び深々と賢人が頭を下げた。顔を上げた賢人の表情は、いつものクイズ作家である賢人のものとなっていた。
「クイズサバイバー、再開だ!」

 今、すべての戦いが終わり、新しい世界の始まりの前触れが起こった。
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プロフィール

特効さん

Author:特効さん
主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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