辰巳君のおはなし~辰巳君、友達の連絡先を誤って消してしまうの巻~

 突然ですが、実を言うと僕は物を溜め込むタイプです。「いつか使うかもしれない」そんなことを思ってなんでもしまい込んでしまいます。カミさんはおろか、子供たちに呆れられることもしばしば。
 溜め込んでしまうのは物だけではありません。人間関係も溜め込みがちです。顔が広いということは決して悪い事ではないのですが、それに中身が伴っていなければ意味がありません。恥ずかしながら、連絡先をいただくだけで結局連絡しないこともしばしばあります。
「これではいかんなぁ」
 携帯電話の容量は有限。このままではパンクしてしまいますからね。ようやく決心した僕は、とりあえずこちらからはもう連絡しないであろう人の連絡先を消すことにしました。
 しかし、ここで問題が発生しました。誤って友達のラサールさんの連絡先を消してしまったのです。

 誤りに気が付いたころにはもう手遅れ。連絡先はきれいさっぱり消えてしまったのです。
「あかん……」
 思わずその場に座り込み、携帯電話を置いて頭を抱えてしまいました。どうしてそんな大事な連絡先を消してしまったのか。そんな後悔ばかりが湧いてきます。
 ラサールさんの名誉の為に言っておくと、決して僕がラサールさんを軽んじていたわけではありません。大切な友達の一人だと考えています。そうじゃなきゃ一緒にクイズ番組の司会をしたり、ビールのCMに出たり、二十年近く付き合ったりはしていません。本当に、すべては僕のうっかりなのです。
 とりあえずせめて電話番号だけでも思い出せないかと必死に考えを巡らせます。しかし、便利というものは怖ろしいですね。携帯電話に電話番号の記憶に頼りっぱなしだったせいで、自分では全くラサールさんの電話番号を思い出せませんでした。これは断じて僕の記憶力が衰えたわけではなく、すべての人に共通することだと思います。何かラサールさんの電話番号を記録した紙やメモ帳がないか探してみたのですが、ありませんでした。あったとしても今はもう使えない昔の電話番号ばかり。よく考えてみれば、直近の連絡先の交換自体「赤外線通信」なるもので行っていたはずなので当然と言えば当然です。ここにきてペーパーレス化のデメリットを痛感しました。やっぱり人間、紙に残すことも大事ですね。
 もはや僕にできることはありません。こうなったら他人の助けを借りるしかないわけです。

 僕にとって最も身近で頼れる人は、カミさんです。常に僕の欠点を見つけては教えてくれる、いわば批判者です。だからこそ彼女ならば、僕に辛辣かつ正確なアドバイスをくれることでしょう。いくら耳が痛くても、しっかりと耳を傾けなければなりません。さっそく彼女に誤ってラサールさんの連絡先を消してしまったことを話しました。
「そう。連絡先のバックアップは取っていないの?」
「あ……えっと」
「取っていないのね?」
「はい」
「こういうことがあるから取っておきなさいって言ったでしょう」
「ごめんなさい」
 そしてそんな的確なアドバイスをあっさり無に帰すのも、また僕なのです。バックアップの存在は知っていました。ですがいつかやろうと思いつつ、機械は苦手だからと放置していたのです。その結果、ツケが回って来ました。
「だったらもう知りません。ラサールさんに会った時に謝って、直接聞きなさい」
 もう知りませんと言いながら、ちゃんと僕にできる別の方法も教えてくれる。やっぱり彼女は僕にとって最高の理解者であり、友です。妻を友というのはいかがなものかと思う人もいるかもしれませんが、僕にとっては戦友でもあるのでそれであっているのです。

「……と言っても、いつ会えるのやら」
 考えてみれば、僕がラサールさんと仕事で一緒になることは年に数えるほどしかありません。「だったら直接家を訪ねればいいのでは?」という意見もあります。僕もラサールさんの家は知っているのですが、彼はまだまだ新婚の身と言っていいので邪魔をするのは気がひけるのです。
 ああでもない、こうでもないと悩んでいるうちに、僕の携帯電話が鳴りました。ディスプレイを見ると、見知らぬ電話番号が映し出されています。知らない電話に出ていいものなのか悩みましたが、とりあえず出てみることにしました。
「もしもし」
『おぅ、辰巳か。俺だ』
 聞き覚えのある声です。忘れるはずもない、ラサールさんの声でした。
「ラサールさんですか!」
『な、何だよ、そんなに驚くことかよ……』
「すみません。実は、ちょっとどうしてもお願いしたいことがあったので」
 驚かせてしまったのは申し訳ないですが、今の僕にとっては渡りに船でした。すぐにラサールさんに事情を説明し、連絡先を教えてもらうことにしました。
『……連絡先、メモできたか?』
「はい、ありがとうございます。助かりました」
『しかし、まさか連絡先を消すとはなぁ……俺、そんなもんか? さみしいことしてくれるなぁ君は』
「そんなことないですよ! 決してしまったのは本当に僕のうっかりですから。ラサールさんがそんなもんなわけないじゃないですか! 確かにそう頻繁に会うわけでもないし、疎遠だと言われれば否めないところですが、だからと言ってそんなもんというわけでは」
『冗談だからそんなにムキになるなって……ま、ありがとうな。だがもう間違って消したりするなよ!』
「はい」
 こうして僕はどうにかラサールさんの連絡先を復旧することに成功しました。しかしよく考えれば、ラサールさんはどうして僕に電話をしてきたのでしょうか? 何か用事があったとは思うのですが、結局僕が連絡先を聞いた後、すぐに電話は終わってしまったのでわからずじまいです。ひょっとしたら用事を度忘れしてしまったのかもしれませんね。僕のせいで。でも、そうだとしてもまた思い出して電話をしてくれるはずなので、大丈夫でしょう。

 ふと、「他に誤って消した連絡先はないだろうか?」と思い、連絡先一覧を眺めました。するとやはりと言うべきでしょうか、あ行の真ん中あたりにあるはずの名前がないのです。そう、『宇治原史規』の名前がありませんでした。おそらくこれまた誤って消してしまったのでしょう。
 ラサールさんと宇治原との決定的な違いは。消した瞬間には気付くことができなかったと言う点です。宇治原の名誉の為に言っておくと、決して僕が宇治原を軽んじていたわけではありません。可愛げのない……もとい、大切な後輩だと考えています。忘れるはずがありません。本当に、これもまた僕のうっかりなのです。
「宇治原は……ま、会えるからな」
 幸いなことに、近日僕には宇治原と共演する機会があります。確か、「天下一文道会」という番組の収録でしりとり対決をする予定です。真剣勝負する前に「連絡先を誤って消してしまったから教えてくれ」と言うのは弱みを握られるようで少し嫌ですが、自業自得なので仕方がありません。
 できれば共演する前に電話でもよこしてくれれば少し楽なのですが……事情を知らない後輩にそこまで求めるのは酷というものですね。
 そんな僕の、ちょっと慌てた一日でした。
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