世界の修正者 第三十話『それから』

 ジリリリリリ!
「……うわあぁっ!」
 目覚まし時計の音が聞こえ、覚醒するようにラサールは目覚め、起き上がった。布団にくるまっている自身、あたりは真っ白な壁――おそらくここは、病室だろう。そしてそんな自分を少し驚きの表情で見つめている男――辰巳がいた。
「ラサールさん、おはようございます」
「オハヨーゴザイマース!」
 辰巳はモンスターレッドを見せながら、嬉しそうに微笑んだ。モンスターレッドも液晶画面で微笑んでみせた。

 ラサールはひとまず深呼吸をし、心を落ち着かせた。改めて辰巳に向き直る。
「あのさ、辰巳。ここって病院だよな? ひょっとして『何も事情を聞かずに診て貰える病院』ってやつか?」
「はい。ずっと気を失っていたので念のために運ばせてもらいました……その後、ラサールさんがレッド君と名乗る機械を持っていることを知りまして」
「ワタシガ自分のソンザイヲ誇示しましタヨ」
 モンスターレッドが体全体を光らせ、鳴らせるだけの音を鳴らす様子を見せた。
「それで二人……はい、二人で相談して、目覚まし時計の音を鳴らしたら目を覚ましたりして、なんて言い合って、実際にやってみたというわけです」
「案の定効果的でしタ」
「そうか、そうだったのか、気をな……」
 直前の記憶がちらつき、フラッシュバックする。
『うん。あのさ、ラサール……俺にも本当に、できるかな』
『……できるさ』
(そうだ、あの時ミスが自分を変えようとして、俺もそれを認めようとして……その後、どうなった?)
「おい辰巳、ミスは!? ミスはどうなった!? 俺が気を失っている間に何があった!?」
 掴みかかるようなラサールの問いに、辰巳は答えられずに黙り込む。ひどく答え辛そうに目を伏せていた。
「あの、まずは、自分の心配をした方が……病み上がりですから」
「……なぁ、何をごまかしているんだ? 教えてくれよ。もっとも君がそうやってためらうってことは、よっぽど悪い知らせしかないんだろうけど、だったらなおさら今聞いておかないと後で立ち直りにくくなるやろ? どうせ知らなきゃならないことだ。とっとと教えてくれ」
「……はい」
 ラサールは自分のことを一切気に掛ける様子はなく、答えを求めていた。実のところ、返ってくる答えもほとんど予想がついていた。それでもどこかで予想が当たっていてくれるなと思っていたからこそ知りたかったのだ。もはや黙ることも嘘をつくこともできず、辰巳はゆっくりと自分の知る限りで顛末を話しはじめた。と言っても辰巳がラサールに伝えることができたのは悪魔と名乗る男がミスを殺してしまったことぐらいだったが、それを聞いたラサールはただ一言「……そうか、わかった」とだけ返し、これ以上言葉を発することはなかった。
 これ以上はどうしようもないと思った辰巳はラサールに「今日はここに入院していてください」と告げ、病室を出た。その後すぐに何かを叩きつけるような音が聞こえたが、辰巳は聞いていないふりをして離れていった。

 今、すべての戦いが終わった。クイズに関わる人々は長い月日をかけて事件の傷跡を癒し、復興させようと頑張っていた。

「智章さん……ありがとう、ございました」
 賢人は智章の墓の前で跪き、手を合わせた。

 クイズサバイバーの収録を終えた後、賢人は智章の家を訪れた。しかしチャイムを鳴らしても智章は出てこない。不審に思った賢人がドアノブを回すと、開いた。
(泥棒でも入ったのか!?)
 あわてて賢人は部屋を回り、智章を探した。たどり着いたある部屋で、ようやく智章を見つけた。智章は椅子に座り、穏やかに眠っているように見えた。一瞬だけ安堵したが、何かがおかしいと気が付き、智章に近づいてその体に触れる。
「……智章さん!」
 それが、智章の死を見つけた瞬間だった。
 クイズ作家の王である智章の訃報はクイズ界を大いに震え上がらせた。病を抱えて病院に通っていた等の形跡も一切見られず、あまりにも突然すぎる原因不明の病死だった。しかしさらに驚くべきは、智章は自分の死期を予見していたかのように、賢人へクイズ作家の王の座を譲るための準備をしていたことだった。自分が死んだ後にやるべきことをすべて遺言に残し、賢人には真っ赤な表紙の本が形見として残されていた。真っ赤な表紙の本には、智章が今までに培ったクイズ作りの奥義のすべてが書かれていた。
 後継者に指定された賢人は涙を見せることなく、クイズ界の立て直しに尽力した。それを冷徹だと思う者もいたが、賢人は意に介さなかった。ただ、智章のようにクイズを作ることに集中した。

「これだけあれば足りますよねお義父さん?」
「知臣君、これは一体何なんだ」
「神社の復興に必要な費用です。特に石舞台の。いかがですか?」
 愚者の復活によって石舞台が真っ二つに割れた賢人神社では、石舞台の撤去が検討されていた。このまま残しておくのも危険だという判断だ。それを聞いた知臣が「ちょっとだけ待ってくれませんか?」と言い、家族を置いてどこかへ消えてしまった。しかししばらくして、知臣は石舞台を修理するどころか新しく作れるほどの金額を抱えて戻って来たのだ。知臣が出した通帳を見た義父の聡一は、思わず瞬きを繰り返した。
「確かに足りる。余裕で足りるぞ。かなり足りるのだが」
「何か問題がありますか? あぁ、智世ちゃんと賢一を置いて行ってしまったのはすみませんでした。けど、こうするしかなかったんですよ。新しく作るにしても、直すにしてもお金はかかりますからね」
「いや、それはかまわないよ。智世もわかっていたはずだ。だが……何だか、君が読めないのが怖くてな」
 大変言いづらそうに、聡一が本音をぶつけた。賢人神社は知臣なくして存在しえないことを聡一はよくわかっている。ゆえに、時おり何も言わずに行動を起こす知臣を恐れている。
「あの偽者をかくまっていたことしかり、君の行動は時々読めない」
「……それはずいぶんとおかしなことを言いますね。僕のすべては、神田家、賢人神社存続のためにあるんですよ? これほど一貫性があってわかりやすいこともないでしょう? あの偽者をかくまっていたのも、目的に沿っていたからですよ。実際、おぞましい偽者は閉じ込められ、ラサールさんはその痕跡を見つけ出してくれたじゃないですか?」
 知臣は満面の笑みで返した。それがさも当たり前であり、言うまでもないと言わんばかりの笑顔だった。
「あ、あぁ、そうだよなぁ……すまない。とにかく、これからどうするかは智世とよく相談してくれ。俺は口を出さないからな」
「もちろんです」
 こうして賢人神社に復興のめどが立ち、再興が始まった。

「おはよう、坂上君」
「宮﨑さん、おはようございます」
 衝突しあっていた解答者同士の和解も少しずつ進んでゆき、すべてが水に流された状態となった。

 長い月日のおかげで、ほとんどの人間が日常を取り戻しつつあった……ごく一部の例外を除いて。
「なぁ、英雄さん? そろそろ正直に話す気になったか?」
「だから、ないって言っているだろ!」
 ラサールはストーカーにあっていた。執拗にある男に付きまとわれていた。
「悪いようにはしないからさ、教えてよ」
「いい加減にしろよ、眞人」
「……だからその名前は今となっては英雄さんとキッチュ君しか知らないような偽名だって。本当の名前は教えられないから、せめて役職みたく『悪魔』って呼んでよ。俺のアイデンティティをぶち壊して楽しいかい?」
「おう、壊れろ壊れろ。面倒なつきまといがなくなって助かる! その程度で壊れるアイデンティティなら大歓迎だ……第一お前も『英雄さん』って何だ。それこそこの世界じゃなくて違う世界での話だろ」
「英雄さんはこの世界でもまた実際に英雄になったからいいじゃんねぇ?」
「嬉しくねぇな。あんなの嘘だらけじゃねぇか。色々広がっているみたいだけどな、黒い欠片の呪いに本当に勝ったのは辰巳だし、賢者を助けたのも辰巳と松尾だし、ミスを倒したのはお前だろうが! 俺、何もやってねぇからな!」
 この世界でラサールは英雄として祭り上げられていた。ただしラサールの言うように『クイズ界を救おうとして最後まで抵抗し、偽者の賢者の呪いに打ち勝ち、本物の賢者を救い出し、偽者の賢者を倒し、クイズ界に安寧をもたらした』というものだ。ほとんどが厳密に言えば嘘である。
 もちろんラサールが意図して広めたわけではない。眞人に体を乗っ取られていたとはいえミスを倒したのはラサールの体であるし、欠片に打ち勝ったことも辰巳についた嘘でありあれから一切訂正もしていない。自然と誤って広まるのは必然であった。事実なのは抵抗ぐらいなものである。故に、ラサールとしてはとても不本意な称号だった。
「一緒にしてくれるなや」
「ぶー」
 子供っぽくつきまとう男――悪魔が頬を膨らませた。頬がしぼんだかと思うと、急に表情が真剣になる。
「まぁ一見ふざけているように見えるけど、俺は真剣に追っているんだ……あの剣の行方を」
「だから、知らねぇよ。俺は見ていないからな。レッドも俺のポケットの中にいたんだから見てねぇよ」
 悪魔曰く、ミスは死ぬ間際に剣を悪魔に投げ捨てた。悪魔はそれをあざ笑い、いとも簡単にかわした。しかしその剣は突然勢いを増し、天空へ消えたと言うのだ。
 悪魔曰く、あの剣には何か意味があるはずだ。例えば世界を変えるほどの力が込められているとしたらどうする? と。
 悪魔曰く、ミスは消滅する前に『これだけは、悪魔なんかに、渡さない……約束が、あるから……ざまぁみろだ、ははは……!』と言い残していた。ならば、あの剣は約束を交わした相手が持っているはずだ。
 悪魔曰く、それにもっとも該当しそうなのがラサールである。なぜならラサールはセカイと約束をしたのだから。
「もしすべてが解決したときには、僕の名前と権限のもとに、願いを一つだけ叶えてあげる……だったな」
「そうそう。だから英雄さんが持っていないとおかしいんだよ。俺はそれが欲しいの! そんなすごい力、悪魔である俺が逃すと思うか?」
「だが、俺のところにはそんな力なんざ届いてねぇんだよ。あったら一つじゃ足りない、叶えたいことなんていくらでもある。こっちが欲しいぐらいだ」
「じゃあせめて、剣の行方のヒントになりそうなことはないかい?」
「ない!」
「そうか。おかしいなぁ。すべて終わったんじゃないのか。でもなぁ、わからん! とりあえず、何かひらめいたり、思い出したら教えてくれよ!」
「誰が教えるか!」
 悪魔は背中にコウモリのような翼を具現化し、飛び去った。悪魔の姿が消えたことを確認し、ラサールはぽつりとつぶやいた。
「そんな力があるんだったら、俺だって欲しいって言っているだろうが……なぁ、レッド?」
「……ソウデスネ」
 ラサールは、未だに本来の世界に対する未練を引きずっていた。

「あーあ、戻りてぇなぁ」
 テレビ朝日の廊下を歩きながら、ラサールはうつむきがちに独り言をつぶやいた。もはや叶わない願いだと思いながら、変わり果てた世界で長く過ごしていながら、その願望は消えるどころか日に日に増していった。今のラサールに出来ることは、モンスターレッドでTokipediaの過去ログを閲覧し、元の世界の情報を眺めることだけだった。最近はそれすら辛くなり始め、やっていないが。
「本当に、あのミスが持っていた『世界を変えるほどの力』ってやつか? あれがあったらいいんだが……どこいったんやろうなぁ? ミスが噛んでいた事件は、全部解決したはずやのに。愚者も松尾と賢者が何とかして、普通に神社に祀られるようになったって聞いたぜ?」
「ウーン」
「ラサールさん、おはようございます」
 目の前から声。顔を上げるとそこにいたのは辰巳だった。
「……えっ!?」
 辰巳の姿をしっかりと確認して、ラサールは驚いた。
「君、どうしたんやそれ!?」
 ラサールが指さしたのは辰巳の目――厳密にいえば、辰巳がかけている真黒なサングラスだった。
「あれ? 君、そんな趣味あったっけ?」
 今までのことを思い出すが、辰巳がかつてサングラスをかけたことはなかったように思える。眼鏡ならばいくらでもあったかもしれないが。
「何か、ドリームストッパーやったっけ。アレみたいに新しいキャラやるんか?」
「違いますよ。だからそのことについて、ラサールさんと話をしたいのですが」
「そうか……じゃあ、屋上で」

 二人は階段を上り、屋上へたどり着いた。そこに他に誰も人がいないことを確認してから、辰巳は無言でサングラスを取った。それを見るやいなや、ラサールは「辰巳、お前、それ!?」と驚愕の表情を浮かべた。
「やっぱりわかっていただけましたか?」
 サングラスを取った辰巳の瞳は黒色ではなく、真っ赤だった。ラサールが落ち着いたころを見計らい、辰巳が説明を始めた。
「つい一か月前からどうも、たまに目が赤くなることがあったみたいで。僕は全く気が付かなかったんですが、カミさんに指摘されまして。「あなた、カラーコンタクトなんて似合わないからやめたほうがいいよ」って言われて初めて知りました。実のところ、最初はそんなばかなと思っていたのですが、一週間前からは黒よりも赤くなる時の方が多くなり始めて、今はほとんど赤に染まるようになりました……そこまで来ると、さすがに僕も鏡を見ればわかってしまいます」
「……嘘やろ?」
「これでも信じられませんか?」
 そう言って辰巳は右手をラサールに見せ、目を閉じた。すると、一瞬で右手に剣が現れた。あの銀色にきらめく剣だった。
「まじか……だから目の色をごまかすために、サングラスか!」
「はい。もっともドラマの撮影の時はサングラスというわけにはいかないのでカラーコンタクトでごまかしていますが」
「そら大変やなぁ。けど、何で? その目って黒い欠片の影響やろ? けどミスが死んだんだったら、黒い欠片を飲んだ人間はみんな元に戻っているはずやろ?」
「はい、そのようですね……でも、僕はそうじゃないみたいなんです。他の黒い欠片の被害者たちにそれとなく話を聞いたんですが、みんな、元に戻る前に何やら苦しくなったみたいなんです。けど、僕には」
「それがなかったってことか?」
「その通りです。いや、正直それがなくて助かったんですけどね。あったら車を運転している最中だったので、事故を起こしていたかもしれませんからね」
「とにかく君は、どういうわけか欠片を取り込んだままで、元に戻っていないってことか」
「はい」
「あれ?」
『もしすべてが解決したときには、僕の名前と権限のもとに、あんたの願いを一つだけ叶えてあげる』
 辰巳の状況とセカイと交わした約束を重ね合わせたその時、ラサールが何かに気が付いた。
「そうか、まだ終わっていないことがあった……! おい、辰巳。悪いが収録終わったらちょっと付き合え! 答えは聞かねぇぞ!」
「え、飲みにですか?」
「違う、厄払いや!」

 番組の収録が終わった後、ラサールが辰巳を連れて最初に訪れたのはショッピングモールだった。
「ちょっと、買い物行ってくる」
「あの……僕もおやつ、買っていいですか?」
「あ、あぁ……いいけどさぁ」
 ラサールはおもちゃ屋や本屋で買い物を行い、辰巳は食料品売り場でおやつを買った。戻って来た辰巳の手にはそれなりの量のみたらし団子のパックがあった。

 二人がその後に訪れたのは賢人神社だった。
「ここで厄払いですか?」
 本日五本目となるみたらし団子をたいらげてから、辰巳が尋ねる。
「あぁ。ミスを倒しても黒い欠片から解放されないとなったら、もうここしか何とかできる心当たりがないんや!」
「はぁ、そうなんですか?」
「君のことやぞもうちょっと真剣に考えろ!」
 少し驚きながら首を傾げる辰巳を引っ張るようにラサールは歩き始めた。
「そうは言いますけどね、もうちょっと説明していただけるとありがたいのですが。厄払いだけだとなんだか不安です」
「それもそうだな。いいか、黒い欠片を飲み込んだ人間が黒い欠片を吐き出す方法は二つあるんや。一つはほとんどの人間がそうやったように、欠片を作った張本人であるミスを倒すこと」
「僕はそれでは元に戻ることができませんでしたよ?」
「そうや! だからもう一つの取る方法は……愚者ってやつに頼むことや」
「俺のこと、呼んだ?」
 賢人神社を真っ直ぐ進む。たどり着いた先に待ち構えていたのは、カラフルで派手な衣装と黄金の冠を身に着け、杖を携えている少年――ラサールのよく知る愚者だった。
「あぁ、探していた。愚者……あ、いや、愚者様に頼みたいことがありましてね」
 ラサールは愚者の機嫌を取ろうと、丁寧な口調に切り替えた。『ヨイショはウチの事務所の本領だ』と言わんばかりに、愚者を敬う雰囲気を出した。
「ちょっと待ってよ。初めて会う人間ごときがこの俺に頼み事? いや、俺は知っているよ? ラサール石井と辰巳琢郎ってやつでしょ? テレビで見た。けど初対面じゃん! お願い事っておかしくない?」
「えぇ、おっしゃる通りですとも。ですから手土産を持ってきました」
 そう言ってラサールは手に持っていた袋から、先程ショッピングモールで買ったおもちゃや本を取り出した。本は『お父さんのためのマジックショー講座』や『男也志島のすべらない手品』、おもちゃは『水につけるとわかめのごとく増える十円玉』や『突然変顔になるトランプ』など、とにかく手品にまつわるものばかりだった。それも、モンスターレッドが某通販サイトのレビューを参考に厳選したものである。
 袋の中身を見た愚者の目の色が変わった。ラサールが渡そうとする前に、愚者は袋ごとひったくった。
「……え、これ、いいの? 本当に貰っていいの?」
「えぇえぇ、いいですよ」
 すでに貰っているだろうというツッコミを抑えながら微笑む。
「やったー! これで松尾をびっくりさせられるぞ、いしししし……!」
「その代わりと言ってはなんですが、我々の話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
「もちろん、いいよ!」
 満面の笑みで快く引き受けてくれた愚者を見て、ラサールはガッツポーズをした。いつか松尾から聞いた『泣いていた愚者を手品で泣き止ませた』という話が思わぬ形で役に立った。

 愚者はラサールから具体的な説明を受けた。
「……なるほど、そこの辰巳豚郎ってやつが」
「琢郎だよ。さっきはちゃんと呼んでいたよね?」
「はいはい冗談だって。辰巳ってやつが黒い欠片ってやつを飲み込んだままになっているってことなんだ。眼が赤くなったり? 剣が出てきたり? そりゃあ人間離れしているね」
「あぁ。けど、愚者君やったら何とかなるんちゃうかと思うてな」
「そうだねぇ。確かにその話が本当なら、俺は観念神だから得意分野ではあるけどさ……わかった、やってみるよ! 辰巳、ちょっと大人しくしていてね」
 辰巳が首を傾げる間もなく、愚者は辰巳の心臓めがけて手を突っ込んだ。
「うわっ」
「大丈夫か? 支えてやろうか?」
「お願いします」
 辰巳の動揺を気にせず、愚者は何かを探るように手を動かす。しばらくして、「あったー!」という声と共に、手が引き抜かれた。
「はい、これでしょ?」
 愚者がゆっくりと手を開く握られていたものは確かに黒い欠片だった。
「そう、それだよ!」
 黒い欠片は細かい光の粒子となり、天へと昇って行った。長く悩んだ割にはあっけない終わり方だと辰巳は思った。
「けど、どうして残っていたんや?」
「うーんとね。これは俺の憶測だけどさ。本来この欠片って、ミスってやつの力でこの世界にありつづけることができたんでしょ。だからミスが死んだら普通消える。けど、辰巳の場合はこの欠片の洗脳に打ち勝ったんでしょ? その時点で欠片の主導権がミスから辰巳に移動して、辰巳の力でこの世界にあり続けることになった。そんなところかな。目が自分の意思に関係なく赤くなっていたのは、しょせん人間だから欠片をコントロールしきれなかったからじゃないかな?」
「そうやったんか……辰巳、よかったな」
「はい。ありがとう、愚者君!」
「どういたしまして」
 辰巳と愚者が固い握手を交わした。ラサールは二人に背を向け、顔を上げた。
「これで、全部終わったのか?」
 ぽつりと空に向かって問いかける。その声にはこれでだめならもうだめだという諦めがこもっていた。
 空が一瞬、強く輝く。目がくらみ、ラサールはとっさに目を閉じる。ザンッと大きな音が前で響く。
 恐る恐る目を開けると、ラサールの目の前の地面に、一本の剣が突き刺さっていた。
「ラサールさん!」
「あぁ!」
 二人には見覚えがある。それは間違いなくミスが使っていた剣だった。二人は思わずハイタッチをした。愚者はグッズを抱えて早々に去って行った。さっそく手品を試すべく風呂場にでも行くつもりなのだろう。
 ラサールは喜々として剣に駆け寄り、引き抜いた。
スポンサーサイト
プロフィール

特効さん

Author:特効さん
主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

期限無き投票
ヒマがあったら投票していってくれちょ。
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
メールフォーム
特効さんと相互リンクしたい人、拍手では言えないことを言いたい人はこちらからどうぞ
カウンター
pixiv
特効さんの絵だよ
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
検索フォーム