世界の修正者 第三十三話『世界の修正者』

 緑広がる森で、ミスは苦悩していた。
「俺は……なれるのか?」
 ある日、世界の神様から「自分の後継者にならないか?」と打診されたからだ。その場で答えを出すことができず、保留し、ふらふらと森をさまよっていた。
「だって、俺だぜ?」
 世界の神様直々の打診そのものは嬉しかった。しかし、自分にそんな資格があるのかと自問自答し続けていた。かつてミスは賢者に対する憎しみに囚われ、クイズ界という世界をめちゃくちゃにしようとした。あの時は賢者の子供達が食い止めてくれたから救われたが、そう都合よく自身の暴走を止めてくれる者が現れるとは限らない。もしまた、自分を見失えば――そんな存在が世界を司ることができるのだろうかと考える。何せ、逆恨みでしかないとわかっていながら、賢者に対する憎しみや未練はまだあったのだ。
「これさえなければ、即答だったんだがなぁ……」
 目の前にそびえ立つ巨木に向かってミスは自嘲気味に笑う。しかし、その言葉を呟いた瞬間に心が軽くなったような気がした。
「……そんなもの、捨ててしまえばいいんだ」
 自分なりに悩み、答えを出せた。あとは実行するだけ――
「ミス!」
 そのはずだったが、背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。なんだか聞き覚えのある声だった。
「お前は!」
 振り返る。そこにいたのは、やはり見覚えのある男――ラサールだった。


 ミスは驚きのあまり、言葉に詰まった。
(どうしてあいつがここにいるんだ!?)
 ラサールがこのひっそりとした森に縁があるとは思えない。ここに人が訪れることはないのだから、偶然訪れるような場所でもない。
「俺がどうしてここにいるんだとか悩んでいるようやけど、そんなことはどうだっていい」
(いや、どうでもよくないだろ! 何でお前がここにいるんだ!)
 問いかけたかったのだが、驚きが大きすぎて言葉が出なかった。
「たまたま通りかかった、それだけってことでええやろ」
 嘘だ。
「そんな事よりこっちには君に言いたいことがあるんや! それだけ伝えたら、もう帰るからな!」
 ラサールはかなり焦っているようだった。あいつは時間に追われているのだろうか? ミスは首を傾げながらも、ラサールの言葉を聞こうとした。
「君は、本気で、本当に憎しみも未練も全部捨てようとしているやろ? そうしなきゃ、世界の神様にはなれやしないって思っているからちゃうか?」
 ついさっき生まれた苦悩のことまでラサールは知っている様子だった。もはや、たまたまなんて言葉で片付けられるような状態ではなかった。ラサールは間違いなくすべての事情を知って、その上でここに来たことがミスにはわかった。よく見るとラサールの手には、ペンとも剣ともとれるものが握られている。それも人間には到底作れない、神あるいはそれに匹敵する存在が作りだしたであろうものだ。ならば、何らかの神秘による導きでここに来たと考えるのが妥当だった。
「けど、そんなことはやめろ。賢者に未練があっても、世界を憎んでいてもかまわねぇ」
 ラサールの言葉を聞きながら、ミスは考える。事情を知っているということは、心を読まれているのだろうか? そんなことを考える。
「もし世界の神様になるんやったら、未練も憎しみも捨てないで、君のままでなってくれ!」
 あるいは、このラサールは未来から来たかの二択だ。
「……なぁ」
「おぅ」
 わざわざ自分にその言葉を伝えに来たとなれば――確信をもって、ミスは問いかけた。
「さもなくば、この後に悪い事が起こるからか? 未来のラサール石井」
 当たっていたらしい。ラサールは少し動揺したようだが、静かにうなずいた。
「そうか、憎しみを捨てた俺は悪い未来をもたらすのか」
「いや、君自身がと言うよりも君の憎しみそのものが暴走して……うん……いや、根はいいやつだったんやけど……どう言えばいいか……君のせいだけや、ないんやけどね」
 ラサールはミスを悪く言わないようにと取り繕う様子を見せた。
(俺がやろうとしていたことは、悪手だったのか)
 だとしても、疑問はあった。
「一つだけ聞くが」
「何だ? 時間がないから手短にな」
「憎しみや未練を抱えたままの俺が、憎しみや未練を捨てた俺よりもよりよい未来を作ることができると思うか?」
 ミスには憎しみを抱えたままの自分が歩む未来が明るい物には見えなかった。どこかで暴走し、また悲劇を繰り返すだろうと思った。
「わからねぇよそんなこと! 俺は未来から来たが、断じて予言者ではないからな!」
 ラサールは言い切った。
「けど、世界に対する憎しみというか不満も何もかもない状態で、世界の神様になるのは、俺はいびつやと思う」
「……どういうことだ?」
「だって……まぁ、神様のことなんざたいしてわからんからな。人間に限って言うが、人間やったら誰にだって憎い奴とか未練とかあるもんやろ? けど、それでも俺らは生きているんや。そういう感情抱えて、折り合い付けて生きている。やりたい放題出来ない中でやりたいことやれるように頑張っているんや」
 人間ならば当たり前の事だと言われても、ミスには今一つピンとこなかった。確かに自身もかつては人間だったが、もはや遠い遠い昔の話で思い出せない。ましてや、若くして人間としての生を終えたのだから。
(半世紀生きることができていたら、違っていたのか?)
「俺はな、世界の神様やからってそれ抱えたらあかんってことはないんちゃうか? て思うんや。不満があるからこそ、世界をより良くするか、自分を変えていくかってことができるかもしれないし……神様って、そんな完ぺきな存在やなきゃあかんか? ましてや君はもともと人間やったんや。人間のそういう、当たり前の要素を捨ててまで、完ぺきにならなあかんか?」
 神の事情をすべて知っているわけではないが、一般的には神は完ぺきな存在と言われているはずだ。ミスはそれを一度たりとも疑ったことはなかった。しかしラサールに疑問を投げかけられ、気持ちが揺らぐ。
「だから俺は、君が君のままで世界の神様になる未来にかけたいんだよ!」
「かける、か。もし俺が、せっかく残した憎しみのせいで最悪の事態を引き起こそうとしたらどうする?」
「……その時は、俺が止める。あの時、「待っている」って約束したからな」
 ラサールの言葉に迷いはないようだった。
「それは、お前だけの責任では済まないんじゃないか?」
「それでも君を信じている。もしもの時はちゃんと俺が始末をつけるつもりや」
「どうしてそこまで俺を信じられる?」
「君が憎しみを捨ててまで世界の神様になりたいと思うほどの何かがあるはずやって知っているからかな。深くは知らんけど。それがあるんやったら、いけるやろ? きっといい未来作れるって、君やったら何とかなるて」
「ラサール……」
「俺は、待っているよ」
 あの時と同じ言葉だ、とミスは思った。それがどこかおかしくてミスが笑うと、ラサールも笑い返した。そしてミスは、「うん」と答えた。
「……あ、やばい。もう無理だ。じゃあな!」
 ラサールの手に握られているものが、剣となった。そしてすぐに同時にラサールの姿はぱっと消えてしまった。ミスは特に驚きもせず、しばらくその場でぼうっと立っていた。
『俺は、待っているよ』
 ラサールが最後に残した言葉が何度も頭の中で響く。
『君が憎しみを捨ててまで世界の神様になりたいと思うほどの何かがあるはずやって知っているからかな』
 簡単な話だ。本来の目的を思い出したに過ぎない。その手段の一つとして世界の神様になろうと思っただけだった。
「賢者になれれば、それが一番よかったんだけどなぁ」
 目的を達成する一番の近道は間違いなく賢者になることだった。もっともなりそこなってからは憎しみに囚われ、目的を忘れ、賢者になるという手段だけを追い求めるようになってしまったが。だから、世界の神様になるという妥協をしようとしていた。
「俺はただ、知恵比べの儀を盛り立てたかったんだ」
 しかし、ラサールの言葉を聞いて、その妥協もやめた。
「そのために、世界の神様になる必要もないかな」
 曇り空を見ながら、ミスは満足げに呟いた。

 ラサールは過去の世界から、漫画の散らばる空間に戻って来た。
「げほっ、げほっ……!」
「説教はうまくいきましたか?」
 うずくまり、せき込むラサールに、先生は問いかけた。ラサールは答えられなかった。顔を上げる気力すら残っていなかった。
「辛いですか? 世界を変えることは。かなり気力も体力も使ったでしょう。ミスのようにかなり直接的な方法で世界を変えていたら、間違いなく死んでいたでしょうねぇ。説教に留めて正解でしたよ……いや、人間が初めて世界を変えるにしてはよく頑張ったと思いますよ?」
「あぁ、そうかよ……褒められても嬉しくねぇな」
 やるべきことをやったはずなのに、今一つ実感がわかない状態だった。まだ、世界がどうなったかという結果を確かめていないからだろうか?
「一応忠告しておきますけど、そう何度もその力を使うと、命の保障はありませんからね?」
 世界が気に食わないからと改変を繰り返すなと、釘を刺されているような気がした。しかし、ラサールには何の関係もないことだった。
「俺がこいつを使うのは、もう、これっきりだ……」
 咳を抑え込み、ラサールがゆっくりと立ち上がった。そして手に持っていた剣を先生に渡そうとする。ラサールは今の世界と最期を迎えると決意していた。
「あぁ、それはあなたの物ですからね。私は受け取れませんよ?」
「……やっぱり、預かってはくれないんだな」
「ミスが持っていたものなど受け取りたくないというのもありますが。何より、それはあなたがミスに託された物だ。だったらそれに伴う権利も責任も、あなたが背負うべきでしょう。ねぇ、世界の修正者さん?」
 また称号が増えたな、とラサールは思った。ただの人間が、世界を変える力を持つ。あまりいい未来は味わえないような気がした。常に世界を変えられるという誘惑は付きまとうし、力を狙うおかしなやつも現れるだろう。なのに、権利を行使できないのだから損ばかりだと思う。
「せいぜい、悪魔に狙われないように気を付けるか……」
 それでも、生きていこうと思った。
 ラサールが困ったように笑った瞬間、漫画の散らばる世界はバラバラに崩れ落ちた。
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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