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あるインテリ芸能人のおはなし~志島男也編~

 クイズ界にまた一人、新たなインテリ芸能人が降り立つ。

 2016年。クイズ界の勢力図は大きく塗り替わった。
 始まりは、2月29日の月曜日夜七時に放送された『Qさま』だった。
「ザビエル、ジャンヌ・ダルク、トマス・モア」
「決めたー!」
「よっしゃー!」
「まさにミラクル! ミラクル!」
「ジークジオン!」
「メイプル超合金、カズレーザーさん! 初登場初優勝!」
「やったー!」
 メイプル超合金のカズレーザーと言う芸人が、初登場ながら『ヤング学力王』で堂々と優勝したことがきっかけだった。Qさまの前にも『ミラクル9』に出演し、事前ペーパーテストで宮崎美子に並ぶ一位を取るなど、インテリ芸人の名に恥じぬ実力の片鱗は見せていたが、実際に大きなクイズ番組の大会で優勝を取った事は間違いなく彼を『クイズ王』として印象付けることとなった。
 その後も優勝まではいかなくとも大いに活躍し、誰もが認める実力はインテリ芸能人として存在し続けている。
 カズレーザーの活躍により最も圧されているのは間違いなく、Qさまのエースこと宇治原史規だった。以前からエースの不調はささやかれていたが、カズレーザーの台頭によりさらに不甲斐なさが目立つ結果が続いていた。そしてとうとう、無冠のクイズ王であった辰巳琢郎の優勝を許してしまうのであった。
「あのー、宇治原ファンっていうのがいるのよQさまにも。どう責任とってくれるの?」
「責任問題に発展しているんですか!?」
 しまいには責任を取るか否かを決定するべく、Qさまにおいてペナントレースが開催されることになる。年間を通した総合的な成績でカズレーザーに負けた場合は責任を取ることになるが、果たして宇治原はどうなってしまうのか? 視聴者のみならず、同業者であるインテリ芸能人も注目している。
「この勝負、宇治原さん達だけのものじゃありませんから!」
「私達だって負けません!」
 ペナントレースには、二人の他にも多くの若手インテリ芸能人が参戦している。
「俺の事、忘れていない?」
「私達だって一応ペナントレースの優勝候補ですからね?」
「俺、参加回数的に不利そうなんやけどな……」
 もちろんベテラン勢も負ける気はなく、若手インテリ芸能人に立ち向かっている。Qさまの学力王はもはや、生きるか死ぬかのサバイバルバトルと化していた。

 ある日、そんなペナントレースに新たなインテリ芸能人が参戦することになった。
「えーと、今回の初登場は……志島君?」
「はい、初めまして」
 三村に紹介され、若い男が自身の名前である『志島 男也(しじま だんや)』と書かれたネームプレートを片手に挨拶をした。力強く大きな目が特徴的で、『インテリイケメン芸能人大会』というくくりでも出られそうな程度には顔立ちが整っている。年齢は三十歳になったばかりという、正真正銘の若手インテリ芸能人である。
「まぁ、見ての通り……言うたらアレですけど、マジシャンです」
 志島はかけている眼鏡をクイッと直すと、自身が身にまとっている真っ黒なスーツをアピールするように一回転した……のだが、その途中で足がもつれてしまい、転んだ。手すりをつかみ、かろうじて全身強打は免れたが。
「痛っ」
「大丈夫ですか!?」
「め、眼鏡が……」
 回転して転んだ勢いで眼鏡を落としたらしく、志島が慌てて探している。見かねたスタッフが落とした眼鏡を拾い、志島に渡した。志島は眼鏡をかけ直すと、司会者のいる席に向き直り、頭を下げた。
「すみません、転んじゃいました!」
「大丈夫だった? 階段でそれやったら危ないから気を付けて!」
「事故になっちゃうからね!」
「えー、果たしてどのような活躍を見せてくれるのか、期待しましょう」
 最後は苦笑い気味に清水アナウンサーがまとめた。

 そんな今回のQさまも、『学力王』の称号を巡って熾烈な優勝争いが繰り広げられていた。ペナントレースにエントリーされていない一般市民であるクイズドクターこと仲西知憲の怒涛の早押し、新進気鋭のインテリ芸能人ことカズレーザーの驚異的なひらめき、崖っぷちに強い男こと吉田たかよしの一発大逆転からのあっさりとした転落など、学力王の盛り上がりは予選にしてすでに最高潮となっていた。
「えー、現在の状況を整理します。残り二問で二名、落第します。現在、吉田さんと宇治原さんが落第圏内、志島さんも一問落とすと落第圏内に入ってしまいます」
「これは、あかんな……あの、すみません」
「はい?」
 清水による状況整理が終わった事を確認してから、志島が手を挙げた。
「次の問題の出題の前に、僕に三分だけ時間をくれませんか?」
「三分ですか?」
「そうすれば、次の問題の答えを導き出して見せます」
 穏やかな口調だが、どこか堂々とした志島の宣言に、収録現場がざわめいた。
「え、ど、どういうこと?」
「えー、僕、マジシャンなんですよ」
「それはさっき聞いたよ!」
「最初の自己紹介でね」
「で、手品と言っても色々種類があるやないですか。トランプを使うとか、コインを使うとか……僕が一番得意としているのは『読心術』なんです」
「読心術? それって、相手の心を読むとかそういうこと?」
「そういうことです」
「……え、待って。まさかそれで、次の答えの問題を当てちゃうってこと!?」
「おっ、さすが大竹さん、名探偵ですね……その通りです」
『えー!?』
 収録現場に居合わせた出演者はおろか、スタッフすら思わず口をそろえて叫んだ。
「え、そんなの、いいんですか?」
「カンニングにならない、それ?」
「だって、そんなの前例ないじゃんね!?」
 当然ながら司会者や出演者たちは動揺していた。手品で答えを当てるなど前代未聞だった。スタッフは混乱のまま協議に入る。清水だけは冷静で、スタッフから協議の結果をうかがった。
「みなさん、落ち着いてください! えー、スタッフが協議を行い、結論を出しました!」
 結論を聞くべく、出演者たちが清水アナに注目する。
「結論は、『志島さんがどのようにして答えを的中させるのか、具体的な手順を公表した後、現在学力王に参戦している解答者全員の同意が得られた場合、実行に移しても良い』とのことです」
 清水の発表に、思わずさまぁ~ずの二人が立ち上がった。
「……え、やっちゃだめとかじゃなくて、やっていい可能性があるんだ!」
「思い切った判断をしたなぁスタッフ! どうなの志島君、それでいい?」
「……わかりました。説明させていただきます」
 揉めに揉めていた間に、すでに三分は経過していたことにはもはや誰も気が付いていない。

 志島はスーツを整えると、清水が居る方へと向き直った。
「最初に聞きますが、清水さんは次の問題と答えを知っていますね?」
「は、はい」
「では、清水さんの心を読ませていただきます。まず、清水さんにメモ用紙とペンを渡してください。そして、清水さんに次の問題の答えを書いてもらいます。もちろん、誰にも見られないように、カメラにも絶対に映り込まないようにしてです」
「手品でよくあるやつだ!」
「そして清水さんに、その紙に書かれた文字を強く頭の中で念じて貰います。僕はその念を感じ取って、答えを読みます。手順は以上です」
「……とのことですが、どうします、皆さん?」
 三村が螺旋階段に立つ解答者たちに問いかけた。
「どうって言われても……そんなこと本当にできるのかしら?」
「できるんですよ! 宮崎さん、信じてください」
「じゃあちょっと、見せてもらおうかしら」
「今までに例がないからな。やっぱ、見てみたいよな」
「手品だから絶対タネがあるはずだし、盗み見だとしたらカンニングだけど……あぁ~、でもやっぱり見てみたい! 超見たい!」
 螺旋階段の王者達が好奇心からか実行の許可を出す中、宇治原だけはまだ考え込んでいる様子だった。
「宇治原、結論は?」
「だって僕、落第かかってますからね! 万が一ここで志島君に見破りを成功されたら後がないんですよ」
「いいじゃないですか、面白そうですし」
「吉田先生、そう言うあなたも落第圏内ですからね!」
「あちゃー、忘れてた!」
「宇治原さん、クイズプレゼン、バラエティー! バラエティーですからそんなにムキになっちゃだめですよ!」
「うるさいねんカズ! もう……わかりました。許可しましょう! やれるもんやったらやってみろってんです!」
「皆さん、ありがとうございます!」
 志島が嬉しそうに、螺旋階段の解答者に頭を下げた。

 スタッフが清水にスケッチブックの一ページとペンを渡した。
「というわけで、頑張れ清水アナ!」
「えー、私、アナウンサー歴結構長いのですが、このような経験は初めてです」
「いや、どんなアナウンサーでもこんな経験ないと思いますよ」
「清水さん、書く前に周りに怪しい人やカメラがないか確認してくださいね?」
「はい」
「確認できたら、答えを書いてください」
 清水はその場にしゃがみ込み、誰にも見られないように気を付けながら、紙に次の問題の答えを記入した。
「記入できましたか?」
「はい」
「では、その紙に書いた文字を念じてください」
「……あの、念じると言うのは?」
「文字をじっと見たりして、頭に焼き付けるようなイメージです」
「わかりました……やります!」
 志島に指示されるまま、清水が目を閉じる。志島もまた眼鏡をはずし、ゆっくりと目を閉じた。普段は様々な騒音にかき消されている空調の音が聞こえてきそうなほどの静寂が収録現場に流れる。
「……これでいいのでしょうか?」
「はい、OKです。もう次の問題の答えはわかりました。出題、お願いします」
「え、今ので本当にわかったの!?」
「はい」
 志島が眼鏡をかけ、目を再び開きながら答えた。
「……では、問題お願いします」
 清水が元の位置に戻った。果たして本当に志島は清水の心を読んだのだろうか? 司会者も、解説者も、解答者も、見守っている人々も、まだ半信半疑だった。
「成長アルバム。この植物は、何? この植物は、何?」
 天の声が出題の前ふりを喋る。そして画面に問題が映し出された。映し出されたのは植物の種。黒く小さい粒が特徴的だ。
「――!」
 すぐさまボタンが押される音が鳴る。解答権を取ったのは志島だった。他の解答者たちは誰一人押せなかった。
「マジか……!?」
「志島さん、答えをどうぞ!」
「カブ」
「……正解!」
 正解のチャイムが鳴り、収録現場に感嘆と驚愕の声が漏れた。志島は大きく喜ぶことなく、余裕の微笑みを見せていた。
「え、マジで!? あれ、カブになるんだ!」
「なに、志島君、あの写真一枚を見てわかったとかじゃなくて!?」
 その場にいた誰もが考え付いた可能性を、三村が投げかける。種の写真だけで的中させた例はなくはないからだ。
「あの写真やったらわかりませんよ……清水さん、メモには漢字で『蕪』って書きましたね?」
「……何という事だ! 果たしてこのような答えの導き出し方が今まであったでしょうか!? 志島さんの手品は完全に成功したようです!」
 清水が驚きながら、先程書いたメモをカメラに映し出した。そこには間違いなく『蕪』と書かれていた。これにより、『志島は清水の心を読んだ』という信憑性がより増した。
「え、そこまで当てる!?」
「本物だ……!」
「志島さん、二段アップです!」
「あ、そうやった」
 すぐに冷静に戻った清水の声により、呆然としていたインテリ芸能人が我に返った。喜々としてネームプレートを持ち、志島が堂々と階段を昇ってゆく。
「すげー! 志島君、すごいよ! ちょっと握手して握手! あと後でサインちょうだい!」
 志島の一段上に立つカズレーザーが志島の手を引っ張り、振り回すように握手した。
「あ、ありがとうございます……サインは、じゃあ、後で」
「嘘やろ、ホンマにやりおった……」
 最も呆気にとられていたのは宇治原だった。なお、吉田は呑気に「すごいなー」と拍手をしていた。
「宇治原、あと一問取らないと落第だぞ!」
「わかっています。わかっていますけど、これだけは言わせてください」
「何だ、宇治原」
「とりあえず志島君の手品については、僕はもう二度と許可しませんからね!」
 収録現場が一瞬で笑いに包まれた。

 その後、宇治原はどうにか最終問題を勝ち取り生き残った。もちろん吉田は落第した。

 そして決勝戦は宇治原、カズレーザーといった優勝経験者の中に、初参戦の志島が紛れ込んでいると言う番狂わせを予感させるメンバーとなった。
 果たして、この激闘がどのような結末を迎えるのか? 落第した解答者も、見届け人も、司会者も注目していた

 収録終了後、カズレーザーは持っていたトロフィーをすぐさま清水に預け、志島に駆け寄った。
「志島君、サインちょうだい!」
「え、あれ、本気やったんですか……僕、てっきり社交辞令や思うてましたよ」
「そんなわけないじゃん! 俺は本気のことしか言わないから!」
「それに、確かに後でサインする言いましたけど、その後でがいくらなんでも早すぎません? 収録後、即やないですか。こういうのは普通楽屋でとかでやるもんやないですか」
「だって、今すぐ欲しいもん!」
「わ、わかりました……すみません、何か書くものないですか?」
 ADが志島にスケッチブックとペンを渡した。志島は丁寧にサインを書くとページを破り、カズレーザーに渡した。
「サイン、ちっちゃ!」
 真っ白な画用紙の中心に、小さい色紙程度のサイズで書かれた志島のサインは、あまりにも余白が多すぎた。受け取ったカズレーザーが思わず目を丸くした。驚きのあまりカズレーザーは画用紙を掲げ、収録現場にいた人達にみせびらかした。サインを見たインテリ芸能人が思わず吹き出した。
「え、サイン、拡大したらいいのに! 拡大して書いていいんだよあれ!」
「拡大とか縮小とかしていかないと! メモ用紙サイズだったらはみでていたんじゃない、これ?」
「言われてみれば、確かに、そうですね……」
 さまぁ~ずからの洗礼のようなツッコミを、志島はどこかのほほんとした雰囲気で受け止めつつかわす。
「志島君って意外と天然なのかしら?」
「自己紹介の時も、くるって回って転んでいたしなぁ……これはとんでもない大物がやって来たかも知れんぞ」
 出演者たちの視線を一斉に浴び、志島が恥ずかしそうにうつむいた。
「宇治原、お前どうするんだよ。ライバルが増えたぞ。賢いし面白いし!」
「お願い、もう出ないで!」
 最後まで和やかな雰囲気で、現場は解散となった。

 新たなインテリ芸能人は常にクイズ番組に登場し続ける。結果を残して天下を取る者、夢破れて立去る者、あるいは全く違う形でクイズ番組に関わるようになる者、彼等の未来は様々である。
 果たして、志島男也の未来やいかに――
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プロフィール

特効さん

Author:特効さん
主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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