賢者の子供達 Advent Braves 序章「Mind Reader」

序章「Mind Reader」

 読心術を得意とするマジシャンの志島男也はクイズ番組にだけは呼ばれても出るつもりもなかった。自分から近づくつもりもなかった。彼がそう心に決めたのは五年前のことだ。その理由を知るものはほとんどない。志島が語りたがらないからだ。
(理由言うたら絶対、「アホか!」て怒られそうやしなぁ)

 そんな志島がある日、決めごとを破ることにした。きっかけは志島が所属する事務所の座長の一言だった。
「クイズ番組のオファー、来てるで? Qさまや」
 まさかQさまからオファーが来るとは思っておらず、志島は驚いた。とてもありがたい話ではあったが、最初は断るつもりでいた。
「なぁ、もうそろそろ、ええんちゃう? 五年も経ったんやし」
 座長は志島がクイズ番組に出たがらない理由を知っていた。
「また、出てみたら?」
 辞書かと思うほど分厚い本を読みながら座長が薦める。志島は少し興味を持ったが、まだ迷っていた。

「すごいやないかQさまに呼ばれるなんて!」
 そんな志島の背中を押したのは、同期のマジシャンの言葉だった。
「俺絶対無理やし……一回、行ってみたらええんちゃうの?」
 心の底から同期のマジシャンがそう言うものだから、志島も少し乗り気になった。

「正直、僕は反対です」
 ただ一人、志島の弟子を自称するマジシャンだけは反対していた。
「本業がおろそかになるかもしれないやないですか」
 志島を想っての言葉だったのかもしれないが、それが志島にとって決定打となった。
(……考えすぎや!)
 弟子の言葉によって「あ、僕考えすぎてたんちゃうか?」と思うようになり、五年もクイズ番組を一方的に避けていたことがどこかアホみたいに思えてきたのだ。
「よし、行ってくるか!」
「志島さん、僕の言うこと聞く気ないんですね」
「弟子の言葉を真剣に聞く師匠はおらんからな」
 そして志島はオファーを承諾した。それが初めてQさまに出ることになる直前の話である。

 初めてQさまに出た時の志島の活躍は見ての通りである。
 Qさまに出た後の感想はいたってシンプルなものだった。
(出てよかったな。何事もなかったし)
 できることならまた出たいとまで思ったほど、楽しかったのだ。

 収録を終えた志島は楽屋に戻った。携帯電話の履歴を見ると、一通のメールが残っていた。
『Qさまどうやった? 大丈夫か? 迎えに行ったろか? 杯馬』
 志島の同期のマジシャン――杯馬からのメールだった。
(どうやった言われても、結果言えるわけないし……それに、迎えに行ったろかて)
 Qさまに出るかどうか迷っていて背中を押された時にもうすうすは感じていたが、杯馬は志島がQさまに出ることが不安だったらしい。
(いくら不安やったとしても迎えに行くってのはないわなぁ)
『さぁ、どうやろうな? 迎えは別に、いらん。志島』
 志島はメールを返してからテレビ朝日を出た。あの返信で諦めたのか、杯馬からの返事は来なかった。

 またQさまに出たいという志島の希望は本人の想像以上に早く叶えられた。再びQさま出演のオファーが来たのだ。志島は『読心術は二度と使わない』ことを条件に出演を快諾した。何度も披露することで読心術の仕掛けがバレることと、「ヤラセだ!」とネットが荒れる事を懸念したためである。番組側も読心術については思うことがあったらしく、条件は承諾された。

 志島はQさま収録開始の一時間も前からスタジオに入り、心の準備をしていた。
(……やっぱり、緊張すんな)
 収録準備の邪魔にならない位置に立ち、何度も深呼吸をする。テレビ出演の経験自体が少ない上に、勝負の場であるスタジオの雰囲気にはまだ慣れていなかった。
 今回で二度目のQさま参戦となる。しかも二本撮りで、両方に出演するのだ。体力や精神力が持つのか、志島は不安に蝕まれていた
(失敗したらどないしよ)
 テレビウォッチャーの杯馬曰く、クイズ番組界隈の若手は次々と入れ替わっている上に年配世代が粘っているため、志島のような若手が生き残ることは結構難しいらしい。
(まぁ……勝ち目が薄いのは事実やけど)
 とにかく優勝とか派手な結果を残すのは難しいにしても、せめて次へとつなげたい。
(そのためにはまず落ち着かなあかんのに)
 何度も深呼吸してみたり、スタジオを眺めてみるも、落ち着くことはできそうにもなかった。
(生きるか死ぬかのサバイバルレース……主に宇治原さんにとって)
 それは、座長がQさまの一視聴者の感想として言った言葉だった。きっと「志島君は関係ないから気楽にやればいい」という意図で言ったのかもしれないが、志島にとってはどうしても前半のインパクトが強すぎて怖くなってしまう。
 悩んでも苦しんでも、未来が見えなかった。
「あっれー、志島君!?」
「カズレーザーさん!?」
 金髪で真っ赤な服の男性――カズレーザーが志島に声を掛けてきた。志島がやや緊張しながら「おはようございます」と挨拶をすると、カズレーザーも「おっはよー!」と朗らかに返した。
(なんやこの、底抜けの明るさ!)
 志島がテレビで見たイメージそのままで、カズレーザーは明るく振る舞っていた。一瞬、自分が悩んでいたと言う事実を忘れてしまうほどだった。
「ねぇねぇ! 志島君はもうスタジオ入り? それにしてはちょっと早くない?」
「いや、早いんですけど……あの、控室って人が多いから居づらくて」
 Qさまの常連出演者であれば個室が与えられるのだが、新参者は控室にまとめて入れられるのである。どれくらいのクラスなら個室になるのかはよくわからないが、志島が張り紙を見た限りでは石原良純は個室だったので、それぐらいのクラスではないと個室は貰えないのだろう。
「それやったらもう、ここ、来とこうかな思うて来たんですよ」
 控室そのものの居心地が悪いわけではなくて。ただ、元来、人付き合いが苦手な志島は最低限の挨拶を済ませると、すぐに控室を出てスタジオに入ったのであった。
 カズレーザーがいたのは計算外だったが。
「早く来たらあんま、共演者おらんからええかな思うたんですけど」
 志島の言葉にカズレーザーが大袈裟に頷く。
「あー、わかるわかる。俺も本当はリハーサル室にいなきゃダメなんだけどさ、宇治原さんがめっちゃ睨んでくるから」
「え、あの宇治原さんが?」
「うん。だからここに逃げて来たの」
「えーっと……それ、嘘ですよね? 宇治原さんが睨んだってところ」
「あ、バレた?」
 志島がすかさずツッコミを入れると、カズレーザーが舌を出して笑った。
「ちょっと信じかけましたけどね……まぁ、嘘やろうなってわかりました」
「すごいじゃん志島君! 嘘を見抜いちゃうなんて、ひょっとしてエスパー?」
「まさか。ただのマジシャンですよ。ちょっと読心術が得意なだけの……僕にしてみればそんなことより、カズレーザーさんの方がよっぽどすごいですよ」
「え、何で?」
「僕にもこんなに気さくに話しかけてくれるし」
 偏見であることはわかっていたが、志島には「売れている芸能人はあまり無名の共演者に話しかけない」というイメージがあった。ましてや会うのは二度目。話しかけられるとは思っていなかった。
「美人やイケメンだったら初対面でも二回目でもグイグイ行くよ、俺」
「は、はぁ……」
 それがいいことなのか悪いことなのかの判断はいったん保留にし、話しかけてもらえてよかったといいように解釈することにした。
「それに本番前やのに、全然緊張してる様子ないですし」
「え!? これでもしているつもりだけど……」
 志島は心の中で「ほんまかいな」と思いながら、カズレーザーをじっと見てみた。確かにちょっとは緊張していそうだったが、それ以前に楽しそうに見えた。
「でも、楽しいからね? クイズ番組ってさ。志島君は楽しくなかった? 初めてQさまに出た時」
 問われて志島は少し考えてみた。初めてQさまに出た時のことを思い出す。
(なんじゃかんじゃでクイズに正解したら嬉しかったし、負けたら悔しかった。そら、優勝したかったけどそんなん難しい話やし、初登場の割にはイジってもらえて、決勝戦に残れて、結構目立ったからよかったかな。つまり、ひっくるめて言うとこういうことなんやろうか)
「……楽しかったです」
「そういうこと! だから、楽しんでよ!」
 肩を勢いよく叩かれて、志島が少しよろめく。思いのほか強力な一撃に、緊張すら飛んだような気がした。
「ごめんごめん!」
 謝りながらもカズレーザーは笑顔のままだった。
(頑張ってとかやなくて、楽しんで、か。何か、ええな……そうしようって感じするし)
 そんな笑顔のカズレーザーを見ながら、志島はQさまがずっと楽しい場所であってほしいと改めて思った。そして、その場に自分が長くいられればいいなと思った。
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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