賢者の子供達 Advent Braves 第一話「Red Color」

第一話「Red Color」

「100パー売れた!」
 なんて口では言っておきながら、自分はまだまだ売れ足りないんじゃないか? カズレーザーは常々そう思っていた。何せそんなことを言おうものなら決まって「調子に乗るな!」「まだ早い!」などと突っ込まれるからだ。だから「まだまだ売れ足りないんだ!」と思っていた。

 ここはテレビ朝日。とあるスタジオではQさま収録のための準備が行われていた。解答者はすでに螺旋階段に立ち、スタンバイしている。
 せわしなく動くスタッフを見ながら、カズレーザーは考え事をしていた。
(何だか、見慣れてきたなぁこの光景)
 カズレーザーが初めてQさまに出演したのが2016年の冬だった。初登場にして、優勝した。
 それからはクイズ界でも100パー売れて、しまいには宇治原のライバルと認定され、宇治原の引退を賭けたペナントレースが執り行われることになった。
 そして今に至るまでがざっと見積もって半年ぐらいだろうか。カズレーザーにとってはあっと言う間の出来事だった。それでも確実にクイズの経験は積んで、慣れたつもりでいた。
 経験を積んだことで心に余裕ができたからか、カズレーザーはある決意をしたのだ。
(今度は俺が、みんなを100パー売らないと! もちろん俺も売れる!)
 かつて自分がQさまで活躍し、宇治原に引っ張られて売れて行ったように。自分もそこまで大きなことはできなくとも、初めてQさまに出る人がせめて全力でクイズを楽しめるようにしたいと思うようになっていた。
(だって、クイズって楽しい物だし!)
 たくさんの人にたくさん声を掛けてみようか。一緒に写真を撮ってインスタグラムに上げてみようか。手段はまだまだ模索中だったが、積極的に行動していた。
(誰か売りがいのある人いないかな~?)
 戦いの舞台である螺旋階段から見下ろしながら有望株を探る。割けるリソースは有限なのだから、売り出す相手の吟味は必須だった。
「……カズ、そない下の方見て、一体何してんの?」
 カズレーザーより一段上に立つ宇治原が疑問を投げかける。
「え? 階段の中の恋人選びですよ?」
 カズレーザーはあえて本当の理由は語らず、もっともらしい嘘をついた。何となく正直に「有望株探してまーす!」と言うのは恥ずかしかったからだ。言ってしまうと「お前ごときが生意気やな!」と突っ込まれそうだというのもあった。宇治原に。
「恋人選び? そっからやと階段に立ってる人は後ろ姿しか見えへんやろ?」
「いやー、後ろ姿は大事でしょ! もう、すごい人は後ろ姿からしてすごいですから! オーラとか!」
「そういうもんなんか? うーん……ようわからんわぁ、お前の考えてること」
「とにかく、宇治原さんから上の人は対象外なんでほっといてください!」
「俺以上!? 俺が対象外なんはええけど、やくさんと宮崎さんは巻き込むな!」
「あらっ、私って対象外なのかしら?」
「宇治原の方が我々を巻き込んでいるじゃないか……」
「すみません!」
 宇治原が後ろを向き、やくと宮崎に頭を下げた。
「それで、恋人候補は見つかりましたか?」
 カズレーザーの一段下に立つ志島がカズレーザーの方を向き、問いかけた。
「うーん、そうだなぁ」
「志島、その話はそない広げたらあかんやつや!」
「あぁ。確かに、かなり個人的なことですからね。執拗に詮索したら失礼でしたか」
「そういう意味やなくて!」
 どこかかみ合わないやりとりをする宇治原と志島。二人に挟まれていたカズレーザーは恋人選びと偽った有望株探しを中断した。
(宇治原さん、やるなぁ)
 先輩も後輩も関係なく勢いのあるやりとりをする宇治原に感心する。こういうところは見習わなければと思う。
 宇治原を中心としたやりとりをニコニコと見守りながら、カズレーザーは収録開始を待った。

 こんな風に楽しくクイズ番組の収録に参加し続けたいとカズレーザーは思っていた。クイズは楽しい物だし、クイズ番組も楽しい物だし、芸能界は夢も希望もある場所で欲しかった。
 そのためなら、自分にできることは何でもやるつもりでいた。

 様々なバラエティ番組に出たり、営業で飛び回りと忙しく過ごしているうちに迎えたまた別の日。ここはテレビ朝日。とあるスタジオではQさま収録のための準備が行われていた。
 カズレーザーは例のごとく早めにスタジオに入った。
(あれ?)
 いつもの見慣れた光景とはどこか違った。スタッフがいつになくどこかあわただしく、困っている様子だった。
「清水さん、なんかあったんですか?」
 すでにスタジオ入りしていた清水に訪ねる。
「いや、天明さんがまだ楽屋入りしていないらしくて……」
「え、天明さんが?」
「まだ遅刻とは断言できないのですが、いつもだったらもう来ているはずなので、スタッフさんがちょっと慌てているみたいですね」
「へー」

 しばらくして、ADらしき男が携帯電話を片手に叫んだ。
「天明さんのマネージャーから連絡ありました!」
 一斉に注目がそのADに注集まる。「それで、何て?」とプロデューサーらしき男が問いかける。
「天明さんが、こちらに向かう途中に気を失って、病院に運ばれたとのことです!」
「……何だって!?」
「それで、今回のQさまには出演できないと……詳しい事は追って伝えるそうです!」
 スタジオにいたスタッフ、出演者たちが一斉に驚きの声を上げた。
「わかった……とりあえず、天明さんの代理は見届け人に頼むとして、準備を続けてくれ。後で天明さんの様子を見に行こう」
「はい!」
 プロデューサーが冷静に指示を出し、準備作業は続けられた。スタジオにいる面々は様々な憶測を呟く。
「過労か?」
「インフルエンザ……にしては早すぎるな」
「まさか、何か事故に巻き込まれたってことはないよな?」

(何だこれ、やっべぇな。これって何かの予兆? あるいは警告?)
 カズレーザーには天明の欠席がとても不穏に思えた。出演する予定の芸能人が何らかの事情により欠席する。テレビ番組に出続ければそういうことはありうることのはずなのに、何故かとても不穏に思えた。
「天明さん、大丈夫なんかな……」
「志島君」
 知らせを聞いた志島がスタジオ内をうろちょろとする。自身以上に不安がる志島が心配になり、カズレーザーは声を掛けた。
「すみません、なんや、心配で」
「うーん。スタッフさんは「過労かな?」って言っているけど」
「過労……それやったらまだ、ええんですけどね」
「どういうこと?」
 カズレーザーが問いかけると、志島が明らかに言葉に詰まった。
「志島君?」
「あ、いや……もし季節外れのインフルエンザとか、そういう、人に感染する病気で倒れたんやとしたら、天明さんだけやなくて直近で共演した人もちょっと危ないんちゃうんかなー思うて」
「なるほど。そういや俺、何日か前にハナー・タッカーのロケで天明さんと会ったけど……しんどそうな様子とかなかったけどなぁ」
 話をこっそり聞いていたらしいクイズ作家の日高大介が口を挟む。
「そうなるとやっぱり、過労じゃないかな? まぁ念のために、俺もなんか調子悪くなったらすぐに病院行ってみるか」
「……そうだよ、志島君。大丈夫だって」
「けど、過労も大変やないですか。ペナントレースもやっていて、大事な時期やのに出られないなんて」
「大丈夫大丈夫! 天明さんって転んでもただでは起きそうにないじゃん? すぐ巻き返してくるって!」
 カズレーザーは自身が抱えた不安は隠し、志島に笑って見せた。

 その日のQさまは見届け人として出演する予定だった伊集院が天明の代わりに緊急参戦することで収録は行われた。
 当初は天明欠席の不安により重い空気が流れていたが、いざ問題が出されると勝負は白熱し、解答者同士はしのぎを削った。
 そして収録終了直後、天明のマネージャーから「天明さんが意識を取り戻しました」という連絡が入り、それを知った出演者はひとまず安心したのであった。

 後日、プロデューサーが天明本人に倒れた当時の状況を訪ねた。
「タクシーでテレビ朝日に向かう前に、ちょっと喉が渇いてきたから飲み物を買おうと思って……マネージャーとタクシーをちょっと待たせてから、細い道のところにある自動販売機へ行って、飲み物を買って……それで、タクシーに戻ろうとした途中で気を失ったんです。多分。マネージャーさんが私が戻って来るのが遅いと思って探してみたら、私が倒れていたのを見つけたらしくて……」
 天明はそう答えた。病院の診断は「特に悪い部分はみつからず、過労によるものと思われる」とのことだった。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。もっと、体調管理に気を付けます」
 元気そうに答える天明に安心した番組制作スタッフは、次回の収録も変わらず天明を呼ぶことにした。
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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