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宇治原君のおはなし~呑気な辰巳さん~

ペナントレースシーズン1真っただ中のおはなし


 緊迫したペナントレースの中でも相変わらずあの人は呑気だと思っていた。

「はぁ~……」
 宇治原はとにかく落ち込んでいた。2016年10月24日放送分のQさまの学力王でまさかの予選落ち、決勝に残ったのは若手ばかり、優勝者にいたっては初参戦の女性と宇治原にとっては夢も希望もない結果となっていた。収録終了後もそのショックが抜けず、他の出演者が心配の声をかけるも一切聞こえないままふらふらと現場を抜け出してしまったのであった。

 そして気が付けば、テレビ局の廊下にあるソファに座り込み、頭を抱えている。
「何やってるんやろ、俺」
 自分の発言から始まったペナントレースが自分の首を絞めている。カズレーザーはまた力を付けてきているし、自分はプレッシャーに押しつぶされて力を出せないでいる。しかも敵はカズレーザーだけじゃない。三月まで猶予はあるはずなのだが、自分がここから巻き返す未来が全く見えない。追い落とされる立場の辛さに目を瞑りたくなり、本当に俯いて目を閉じた。
「おい、宇治原?」
 とんとん、と体を誰かに叩かれた。不意打ちの衝撃に少し驚きながら、顔を上げた。
「辰巳さん?」
「あ、やっぱり宇治原やった。よかった。俯いてて顔見えんかったから自信なかったけど」
 宇治原の目の前には辰巳が立っていた。
「ずいぶん落ち込んでるみたいやなぁ。しょぼくれた顔して。ジブン、ほんまにQさまのエースか?」
「……エースや言うてるでしょ」
「何やもう、反論に元気がないなぁ……これでも飲んで落ち着け」
 そう言って辰巳は手に持っていた缶コーヒーを宇治原に握らせた。どうやら受け取り拒否は許されないらしい。宇治原はためらいがちに受け取ると、プルタブを開けた。カチッという音と同時に香りが広がり、鼻に届く。しばらく缶コーヒーには口を付けず、香りを楽しんだ。
「コーヒーの香りにはリラックス効果があるからね……理由は忘れたけど」
「確か、ピラジンやったんちゃいますか?」
「へー、そうやったんか」
 そう言いながら辰巳が飲んでいるのは小さいペットボトルの緑茶だった。
「俺はどちらかと言うと、こっちの方がね?」
「記憶力向上狙いですか?」
「……あぁ、カテキンが入っているからか。そこまで考えていないよ。単純にこっち派というだけで」
 何や、辰巳さんらしいなぁ。落ち着きを取り戻しつつあった思考の中で宇治原は思った。

「まぁ、悩みは尽きないわけですよ」
 ちびちびと缶コーヒーに口を付けながら、宇治原はぽつぽつと語り始めた。
「もうね、若い奴らがどんどん出てきているわけですよ」
 敵が増えたという状況の悪さ。
「自分の衰えかて、わかっていますし」
 出したいはずの答えが出ないという苦悩。
 それはとにかくとりとめのない吐露だったが、共感する部分もあるらしく、辰巳はうんうんと頷きながら聞いていた。
「……けど、不思議なもんやなぁ」
 一通り宇治原が吐き出したことを確認し、辰巳が口を開く。
「何がですか?」
「いやね、こない早く宇治原からそんな悩みを聞くことになるとは思わんかったなーって。もっと後になると思うてたんやけどなぁ、こういうのって」
「え?」
「だって答えが出て来おへんとか、そんなんもっと年取ってからの悩みやろ? 倒すべき敵が増えたってのも、もっと偉くなってからの悩みやろ?」
 お茶を一気に飲み干し、今度は辰巳が語り始めた。
「そら、俺もクイズ番組のことで悩むことはあったよ。だいたい君のせいやけど」
「すみません」
「やばいやつ来たなとか、答え出なかったとか……でも君以外に敵はそんなにいないって思ってたし、答えが出てこない言うても、そんな深くは悩んでなかったんや。たまたまあかんかったなぁぐらいで。またチャンスがあったらそん時は答えだせるしみっちりやり返したる! ぐらいの希望はあったで?」
 辰巳がそんな悩みを抱えていたのは何歳の時なのだろうか。詳しくはわからないが多分、今の自分よりは歳を取った頃のことなのだろうと宇治原は思った。
「……そう考えると、あん時の俺よりまだ若いのに、何で宇治原はそない深刻に悩まなあかんのやろうなぁ?」
 辰巳のどこか悲しげな一言に、宇治原はたいそう驚いた。
「俺が呑気なだけなのか、今より昔がだいぶ楽だっただけなのかはわからんけど……何でやろ」
「ちょっと待ってください。何で辰巳さんの方が落ち込んでるんですか?」
「だって、クイズって楽しいモンやろ? それやのにクイズのことでずっと悩んで、落ち込んでいるやつ見たら落ち込みもするわ……」
(だからってどうしてそんな顔するんですか)

 緊迫したペナントレースの中でも相変わらずあの人は呑気なものだと思っていた。
 我関せず、やりたいように自分のクイズをやってるように見えた。
 そんな人がどうして、僕のせいで落ち込んでいるのだろうか?
 僕の不甲斐なさを笑うどころか、悲しそうにするなんて。

(……あかんやろ!?)
 落ち込んでいる場合じゃないと思った瞬間、沈んでいたはずの感情が爆発した。
「大丈夫ですて! 僕、大丈夫ですよ!」
 宇治原は立ち上がり、辰巳を励ますように肩を揺さぶった。
「辰巳さんも悩んでたんですよね? 今の僕みたいに!」
「あ、あぁ」
「けど、今こうして辰巳さんは元気におるやないですか! なんやかんやで! だったら僕も、立ち直れるに決まってるでしょ!」
 あなたにできたことが僕にできないはずがないと大きく言ってみせた。
「だって僕、エースですよ? Qさまのエースですよ!?」
 恥ずかしげもなく、心の底から自分のことを誇示してみせた。
「このままで終わるわけないでしょ! 三月まであるんですから!」
 その先に夢や希望があるかはわからないが、とにかく前を向き、未来を見出したかった。どうせ先の事がわからないならとにかく進むしかないと考え直した。宇治原は落ち込みっぱなしの自分にも言い聞かせるように叫んだのだ。
「……そうだ、そうだよ宇治原。そういうものだよ」
「え?」
 すると、暗かったはずの辰巳の目に光が戻った。
「今はあかんくても、そのうち何とかなるし、最後に勝てばええってやつや。宇治原が巻き返せないわけないやろ?」
 ざっくりとしていて、とてもいい加減なことを言いながら、へらりと笑っている。宇治原のよく知る呑気な辰巳だった。あまりにも早すぎる辰巳の様変わりに、宇治原は感情の持って行き所を失ってしまった。何となく衝動はあるはずなのに、頭は急速に冷えていく。そんな感じだった。そんな冷静になった頭で、思い浮かんだ可能性が一つあった。
「辰巳さん。まさか、さっき落ち込んでたのはウソやったんですか?」
「うん」
 悪びれる様子もなく辰巳が即答した。
「え? それは何のための嘘なんですか?」
「いや、宇治原は性格悪いとこあるから、ジブンより落ち込んでるやつ見たら元気出るんちゃうかなーって思って」
「何やそれ!」
 急に生まれた苛立ちに任せ、宇治原は手に持っていた空き缶に力を込めた。グシャっと潰れるまでには至らず、少しだけへこんだ。
「あらっ」
「僕そない性格悪ないですよ! 僕を何やと思うてるんですか!?」
「カズレーザーや他の若手に負けてほしいと思っている悪い奴」
「いや、厳密にいうとそれも違いますからね!? カズレーザーに負けてほしいんやなくて、僕が勝ちたいだけですから!」
「ごめんごめん、そうやんな。うん……でも、よかったぁ」
「何がですか?」
「いつもの宇治原に戻ってくれて」
 辰巳のその言葉と笑顔に嘘はないと思った。
「……不本意ですけどね」
 そして、本来は呑気な先輩がわざわざやってくれた悲しげな演技を無駄にしないためにも頑張りたいと宇治原は思った。
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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