賢者の子供達 Advent Braves 第五話「East West」

第五話「East West」

『そうと決まったら早速行動しないと! 事態は一刻も早く解決しなきゃならないやつだし』
 カズレーザーは昨夜そうは言ったものの、そう簡単にはいかない事情があった。
「ねぇカズレーザー君、いつになったら動き出してくれるの!?」
 カズレーザーの服のポケットに収まっている勉強小僧が問いかける。勉強小僧に体を小さくする能力があるのだ。
「そうは言っても、忙しいからどうしようもないんだよ! テレビの次はラジオにインタビュー! 明日も明後日も忙しい! あー100パー売れるって大変だー!」
 テレビ局の廊下を駆け抜けながらカズレーザーは答えた。すれ違ったスタッフが一瞬不思議そうに首を傾げていたのは気のせいではないはずだ。傍から見れば独りで何かを言いながら走っているバグった人間なのだから。

『とりあえず、俺の知り合いのクイズ作家にこのことを話してみるよ。黒い影のことも、勉強小僧のことも、全部』
 それ以外にカズレーザーがクイズ界を救うために何か行動している様子はなかった。そしてクイズ作家からの返事はまだ来ていない。今日の朝連絡を取ったばかりなのだから当然と言えば当然なのだが。それでも時間が無いと苛立ちを覚えた勉強小僧がじたばたと暴れる。
「今忙しい俺に頼むからそうなるんだよ。だったらもっと暇な奴に頼めばいいじゃん。澤山とか」
「今の澤山君は信用できないよ。一回倒れているし」
「そりゃそうか」
 階段を勢いよく降りる。その途中でカズレーザーの携帯電話が鳴った。いったん立ち止まり、画面を立ち上げる。
「……日高さんからメールだ」
「それって、カズレーザー君が連絡を取っていたクイズ作家さん?」
「うん」
 カズレーザーはメールを開けた。

 カズレーザーさんへ
 クイズ界の危機について話してくださりありがとうございます。
 にわかには信じがたい内容ですが、僕はあなたを信じています。
 そこで、より詳しい話を聞かせてもらえますか?
 明日ミラクル9の収録に参加すると聞いたので、僕がそちらに向かいます。
 僕からもあなたに話しておきたいことがあります。
 日高大介

「……明日かぁ」
「えー。もっと早いところ日高君に話せないの? 今日は無理?」
「そうしたいのはやまやまだけど、難しいんじゃないかな。俺も日高さんもスケジュールがいっぱいいっぱいだから。確実に会えるのは収録現場にどっちかが足を運ぶぐらいしかないよ。明日なのはまだ早い方だよ。何よりこんな大事な話、メールだけで済ませるわけにはいかないからね。それまでに誰も倒れない事を祈るしかないな。……なんか、ごめんね? 引き受けといてこんな調子で」
「……しょうがないよね。けど、一つだけ約束して欲しいんだ」
「何?」
「体だけは大事にね?」
「……オッケー!」
 携帯電話の画面を消すと、カズレーザーは再び走り始めた。

 一方で、志島は大阪の商業施設のステージでマジックを披露していた。志島の所属事務所である『ブックコート』のマジシャンが多数出演するマジックショーである。若手、ベテラン問わずマジシャンが次々とマジックを披露する。そして、今回は志島がトリを務める。
「えー、お客さんの中で僕の事知ってるって方……あー、けっこうおりますね。では、Qさまで見る前から僕の事知っていたよって人……はい、Qさまの力は偉大ですね」
 軽妙なトークをはさみながら、志島は得意の読心術によって奇跡を起こす。
 ランダムに選ばれた観客の一人をステージに上げ、スペード、ダイヤ、ハート、クラブからそれぞれ一枚ずつ志島に見えないように選ばせた。選んだカードは誰にも見えないように観客の胸に伏せさせた。残ったトランプはすぐさま志島のポケットにしまわれる。
「では、あなたが選んだカードを頭の中で強くイメージしてください」
 選ばれた観客を志島がじっと見つめる。十秒ぐらい経っただろうか。
「えーっと、あなたが選んだカードはダイヤの3、ハートの7、クラブのJ、スペードのA……ですか?」
 観客が胸に伏せていたカードを開き、客席に見せた。
 カードはダイヤの3、ハートの7、クラブのJ、スペードのAだった。
 少し遅れて客席から「おー!」という声が響いた。
「いやー、こんな地味な手品ですみません。読心術ってどうしてもこんな感じになってしまうんですよね……以上、志島男也でした」
 拍手喝さいの中、マジックショーは終了した。

 志島は営業終了後、小腹がすいたため商業施設内のファミリーレストランで食事をとっていた。カルボナーラとサラダを注文した後、本を読みながら料理が来るのを待っていた。まばらにいる客の一部が志島を見ているようだったが、当人はあまり気にしていない。
 先に運ばれたサラダを食べている最中に携帯電話が鳴った。
「もしもし、杯馬か?」
 サラダを食べる手は止めずに杯馬からの電話に出る。今頃東京で何をやっているのだろうかと少し考えながら。
『おぅ。さっきの藤本さんのことやけどな、座長が話通してくれたで!』
 想像以上に早く届いた朗報に志島は思わず声を大きくした。ここまで早くすべてが決まるとは予想外だった。三日はかかると思っていたのに、即日決定だ。人の目がなければ踊っていただろう。
「ほんまか! さすが杯馬や」
『おい、サラダ食いながら喋んな! 飲み食いしながら電話出るのは行儀悪いて言うてるやろ! あと飲食店でそない大きな声出すな! 他のお客さんに迷惑やろ!』
「ご、ごめん」
 杯馬に怒鳴られ、急いでサラダを噛み砕いて飲み込んだ。そして声のボリュームを落とした。
「で、藤本さんとはいつ会えるって?」
『えっと――』
 杯馬が日時を伝える。志島はカバンにしまっていた手帳に日時を書き込んだ。

『なぁ、志島。こっからは俺が個人的に気になったことやけど』
「何や?」
『座長はお前が藤本さんに会いたがっている理由知ってるんちゃうか?』
 志島が一瞬固まる。
「え……何でそう思った?」
『あまりにもすんなりと話が通ったからや。いくら俺が人に頼むこと上手い言うても『志島がどうしても会いたがっている』て言うただけで座長が快く藤本さん側と話を通してくれるわけがない。確認するやろうが色々。けど実際は、快諾に近い形ですんなり決まった。そうなると、座長は理由を知っている……まではいかんにしても何か察したとしか思えへん。せやから藤本さんにすぐに話を通しに行った……藤本さん側の事情は知らんけどな』
 杯馬の言葉に、志島の表情が険しくなった。
(ほんまに杯馬ってカンがええな。無駄に)
 先程電話越しにもかかわらず志島が食べているものや居場所をピンポイントで特定したこともそうだが、杯馬はカンのいい男であると志島は思っていた。それが志島から見た杯馬のいいところでもあり、鬱陶しいところでもあった。
「だったら何やって言うんや?」
 志島の声が低くなる。
『事情を察することができる座長にお前が藤本さんと会いたい理由を隠す必要はどこにもない。そうなると藤本さんに会いたい理由を隠したいのは座長に対してやなくて、俺に対してという推測ができる。そして座長が知っていて俺が知らなさそうなことなんて限られている。例えば……そう、五年前のこととか?』
 見事に言い当てられた。携帯電話を強く握りしめる。あまり五年前のことに触れてほしくはないが、仕方がなかった。
「……今ほどお前にしか色々頼める相手のおらん自分の社交性のなさを恨んだことはないわ」
『それはこちらの知った事じゃないですからねぇ……』
 お互いに言葉に困り、少しの間黙り込む。
「まぁ、お前のカンは当たっているとだけは言うといたるわ。お前の言う通りこれは五年前のこととだいぶ関係ある。けど、詳しい事情を話すつもりはないわ。五年前の事も、今のことも」
『そうか、わかった。事情は話したくなった時にでも話せばええわ。こちらから深く詮索する気はないからそない怒るな。俺に言う必要はないけど……創史には言うといた方がええんちゃうか?』
「あいつか」
 志島が溜息を吐き、俯く。創史とは、志島の弟子を自称するマジシャンの刀刃創史のことだ。先程まで一緒に営業をやっていた。
『あいつ、お前の事めっちゃ慕ってるやろ? 事情をちゃんと言うとかんとあいつはよかれと思って色々とやからすで? それはまずいんとちゃうか』
「あぁ……そうやろうなぁ。まずいわなぁ」
 杯馬の言う未来がいとも簡単に見えて、志島は机に突っ伏した。よかれと思ってやらかすというのは、例えば志島が「ちょっとあいつ邪魔やなぁ」と思った人間がいれば「じゃあ、ちょっと刺しますか?」と平気で言ってくることだ。一応自分に伺いを立てるならばまだいいが、もし志島に何も聞かずに行動を起こすようなことがあれば大変な事になるのは火を見るよりも明らかだった。
 ましてや今回の件を創史が知れば、彼がどうするかは何となくわかる。
「けど、あいつにも言いたないわこれは。そもそもあいつ五年前は一般市民やったし、あのことを知らないんやったら今の事も知らないままでおってほしいわ。何か感づきそうやったら、適当にごまかしてくれ。何かやらかしそうやったら、それはあかんって言うたってくれ」
『ムチャ言うなぁ。生活指導か、俺は! まぁ君からの頼みやしやるだけやってみるけど、嫌な予感がするからこれだけは約束してくれ』
「何や?」
『志島、お前絶対に危ない事はすんなよ』
「……待って。たかがクイズ番組に関係することで危ない事って何やねん」
『わからん! けど、それを言うとかなあかん気がしたんや! ほな!』
 電話が切れた。それと同時に注文していたパスタが届いたようだ。
「お待たせいたしました、ナポリタンです」
「あれ? すみません、僕、カルボナーラ頼んだんですが」
 いや、志島が注文したのはカルボナーラとサラダだ。ナポリタンが置かれるはずがない。
「あぁ、それ僕ですわ」
「失礼しました!」
 志島の後ろの方から男の声が聞こえた。やはり店員が隣の席の注文と間違えたのか。びっくりした。店員が隣の席へとナポリタンを運び直す――なんとなしにナポリタンの行方を追っていて、志島は気が付いた。
 叫びたかったが、さっき杯馬に大声を出すなと怒られたばかりだからとっさに抑えた。
「創史……!」
 ナポリタンを注文していたのは創史だった。ついさっきまで一緒に営業をしていたマジシャンであり、勝手に自身の弟子を名乗っている男だ。
「志島さん、奇遇ですね」
 不気味なほど嬉しそうな笑顔を浮かべながら、創史は志島に声を掛けた。
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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