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賢者の子供達 Advent Braves 第六話「Weasel Word」

第六話「Weasel Word」


「お隣よろしいですか?」
「お断りします」
「そうおっしゃらずに」
 創史は自身が注文したナポリタンと伝票を持ちながら志島の向かいにある席に座った。
「……いつからあっちにおった?」
 志島はまどろっこしいことは嫌いだった。創史がここにいるのは間違いなく意図があってのことだ。まずはどこまでさっきの話を聞いていたのかを探ることにした。
「杯馬と何か話していましたよね?」
 ナポリタンには手を付けず、志島に逆に問いかける。
「はなっからかいな……」
 ほぼ最初から聞かれていたという事は、ずっとあの席にいたということなのか。気が付かなかった自分に驚いた。
「もうええわ、俺に言いたいことがあるんやったらとっとと言え」
「何故、志島さんはフジモトさんという人に会うんですか? そしてそれを僕らに隠す理由は何ですか?」
 研いだナイフのように鋭い目を志島に向ける。師匠と尊敬する相手に対しても容赦がない。
(こいつの目、苦手やな)
 穿った見方という言い回しを思い出す。まさしく創史はナイフで刺して相手の本質をほじくろうとしているように感じた。
 勢いよく立ち上がって逃げようと思ったが、ファミレスという場所が悪い。今ここから立ち去ろうとしても会計をしなければならないため、その間に捕まるだろう。相手を手品で驚かせてお金は置いて行くという手法をとるには周りに人が多くて目立つのが問題だった。
「……あぁ、とうとうお前に話す時が来たか。お前にだけはバレたなかったんやけどなぁ」
 志島が導き出した答えは、話す事だった。
「お待たせしました、カルボナーラです」
「なぁ、これ食うてもええか?」
 ただし、だいぶ言葉を濁して。
「……食べながらでも話して下さるんでしたら、どうぞ」

 創史はナポリタン、志島はカルボナーラをそれぞれ食べながら会話を始めた。
「フジモトさんっちゅーのはまぁ、田畑藤本の藤本さんや」
 名前を聞いてもピンとこないらしく、創史は首を傾げた。
「あぁ、お前テレビあんま見たりせえへんから知らんか……よくクイズ番組に出ている東大卒の芸人さんやということだけわかってくれたらええわ」
「はぁ」
「それで何で俺が藤本さんに会いたいか言うとやな……そもそも俺、五年前にQさまに出るはずやったんや」
 創史がパスタを巻く手を止めた。
「て言うか、テレビ朝日まで行って、楽屋にも入って、あとは時間が来たらスタジオ行って収録するだけやった」
「初耳ですね」
「座長以外にはほとんど言うてないからな、このことは。けど、出なかったんや」
 カルボナーラのベーコンをフォークにさしながら志島は続ける。
「どうしてですか?」
「俺が土壇場で出るのやめたんや」
「……ドタキャンということですか」
「せやな」
 おおごとであるはずなのに、志島の言い方はあっけらかんとしたものだった。
「そん時の楽屋がな、俺とか他の若手のインテリがまとめて入れられるところやったんや。そこで藤本さんに結構気にかけてもらってたんや。けど、ドタキャンでそれ以来会う事もなく……せやからこうして俺もQさま出るようになったし、藤本さんにはあの時のことで色々言うておきたいなーって思っただけや。クイズ番組で共演するの待ってもええかなと思うたけどそれやと不確実やし。まぁ、そういうことや。みんなに言うてないのはドタキャンしたのがバレるのが恥ずかしいからっちゅーことや」
 カルボナーラのクリームをスプーンですくいながら志島は語り終えた。
「これで納得してくれた?」
「……すみません、ちょっと、飲み込めていなくて」
「ナポリタンが?」
「そうじゃないですよ。あなたの話がです」
「え、そない難しい話やった?」
「ええ、難しいですよ。かなり難解です」
 創史がフォークを皿の上に置く。軽い音が鳴った。
「志島さんの話、嘘は言うてないけど大事な部分が隠されている。そんな気がするんです」
「……ごちそうさまでした」
 カルボナーラを完食した志島が手を合わせる。
「で、嘘は言うてないのはわかるやろ? それやったら別にええがな」
「よくないんですよ。例えるならば「僕の家ちょっと古いんですけど見ます?」て言われて紹介された家が法隆寺やったぐらい隠されている感が」
「何ちゅう例えすんねん」
 思わず吹き出しそうになる。パスタが口の中に入っていなくてよかったと思った。
「とにかく、志島さんが喋らなかった部分にカギがある言うことです」
「それは個人の感想やろ?」
「はい、全ては僕のカンです」
 最後に残ったピーマンをフォークで掬い取り、口に運ぶ。
「けど、僕のカンって結構当たるんですよ。自分で言うのも恥ずかしいですけど……ごちそうさまでした」
 創史もナポリタンを完食し、手を合わせた。
「そういう大事な部分は僕に話してくれないんですね」
「話す義務ないからな。あと言うておくけど、当日ついて来るなよ?」
「それはご心配なく」
 創史はスマートフォンをポケットから取り出すと、スケジュール管理アプリを展開した。志島が藤本と会う予定の日には「愛知県で営業」と書かれていた。
「今日、座長が突然入れよったんですよ」
「物理的に絶対ついていけないってことか」
「そういうことでしょうね」
 おそらく創史が志島についていかないように、座長が意図的にスケジュールを入れたのだろう。創史も座長の意図はわかっているようだったが、断れるはずがなくしぶしぶ受け入れているように見えた。
「安心して藤本さんに会いに行けるわ」

 創史の分まで伝票を手に取り、志島は会計を済ませた。ファミレスを出て、商業施設を出る。最寄り駅を目指し、東京へ帰る予定だ。
「志島さん」
 歩き出そうとする志島に創史が声を掛ける。
「僕は志島さんに一つだけわかってほしいことがあるんです」
「何や?」
「僕は、あなたが心配な」
「お節介や」
 創史の言葉を遮る。
「ええ年やし、自分のことぐらい自分で何とかするわ」
「ジブンが悪い状況におることは否定しないんですね」
 うっかり口を滑らせてしまった、と志島は舌打ちした。創史が一体どこまでわかっているのだろうか? 探ろうと思って手を動かそうとしたが、知るのが何だか怖くなったので手を引っ込めた。
「僕は志島さんを助けたいだけなんです。困ったことがあったら言うてほしいんです。僕はあなたの弟子なんですから、僕にできることなら何でもしますよ」
「ええってそういうの……お前は自分の事に集中してたらええんや。あんま、俺にかまうな!」
 そう言って志島は走り出した。
「あ、待ってくださいよ!」
 少し遅れて創史も志島の背中を追いかけるように走り出した。

 その頃、田畑藤本の藤本はひどく悩んでいた。
「志島男也……」
 名前を呟いてみて、さらに重い気持ちになった。今度劇場で漫才終了後に会う事になる相手だ。
(正直会いたない)
 しかし約束してしまった以上は会うしかない。藤本の気持ちは重くなるばかりだった。
『志島男也という人に会って欲しい』
 そんな電話が来た、という連絡が事務所の人間から来たのが数時間前の事だ。電話の相手は志島が所属するブックコートの座長を名乗ったと言う。正直座長のことは知らないが、志島という名前には聞き覚えがあった。そして完全に思い出した時、藤本は志島と会う事を承諾した。自分には断る権利がなかったのだと思う。
(まぁ、会うしかないけど……)
 ただ会うだけでは不安だと思い、藤本はある人に電話をかける。クイズ界が不穏だという噂はかねがね聞いている。何か悪い事が起こるような気がして、保険をかけておきたいと思った。
「もしもし、僕です。藤本です……あの、宇治原さん、ちょっと話があるんですけどいいですか……はい。僕、今度志島男也って人と会うんですよ。マジシャンの。それだけ、報告しておかなと思って……」
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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