賢者の子供達 Advent Braves 第八話「Treacherous Hero」

第八話「Treacherous Hero」



 カズレーザーと日高は勉強小僧を残して会議室を飛び出した。すれ違ったスタッフ達にラサールがどこへ行ったのかを聞いていく。
「ラサールさん? エレベーターで会いましたよ。確か、屋上行きのボタンを押していたような……」
 そうしてラサールの足取りをたどって行く。その中で小柄な警備員の男性から決定的な証言がとれた。
「屋上だね? わかった、ありがとう!」
「ありがとうございまーす!」
 警備員の男性にお礼を言い、二人は屋上へ行けるエレベーターを探す。
「でもラサールさん、屋上に何の用があったんでしょうね? 日高さんはどう思います?」
「うーん……誰かと会う約束をしていたとか?」
「まぁ、それぐらいしか考えられないですよね」
「それで、先約があるからちょっと待ってもらうように伝えるつもりだった……ということかも」
「なるほど! けどそういう連絡ってメールや電話でできるんじゃないんですか?」
「携帯電話を持っていないような相手ってことかもしれないな。例えば、神様とか!」
「そりゃあすごいですね! いやー、本当に、誰なんでしょうね?」

「……どういうことだこれは!」
 さかのぼる事三十分前。ラサールは楽屋のテレビに映し出された『五年間、お前は俺を待っていてくれたか? もしそうならば屋上で会いたい』というメッセージを見て、テレビ朝日の屋上へ足を運んだ。しかし屋上でラサールを待ち受けていたのは、予想とは違う人物だった。
「俺はてっきり『なりそこない』……いや、ミスだと思って来たんだけどなぁ!?」
 ラサールはメッセージの送り主を『なりそこない』ことミスだと信じていた。

 忘れはしない五年前、『知恵の欠片』と呼ばれる事件の話だ。賢者が残した武器に選ばれたクイズ王の五人が『なりそこない』を討つべく賢人神社で最後の戦いに挑んだ。
「覚悟しろよ!」
 その五人の中に、おもちゃのような剣を武器にしたラサールもいた。
『なぜ、この俺が、負けた……』
 五人、いや、すべてのクイズプレイヤーの力を合わせてとうとうミスを討った。
『そん、な俺は……ただ……賢者になりたかった、だけなのに……』
 あの時、賢者への未練や現世への未練をにじませながら、消えそうになりながら、『なりそこない』は言った。
『だったら修行し直せ、出直してきやがれ。うまくいえないけど、どうしてジブンが賢者になりたかったのか、何のために賢者になるのか、賢者になってするべきことは何なのかを思い出したり、さ……』
 消えようとする『なりそこない』にラサールはそう語り掛けた。
『俺は、待っているよ』
 この一言を聞いて、『なりそこない』は満足したかのように、光の玉と共に天へと昇って行った。
 それが、五年前の『知恵の欠片』の結末だ。

 だからこそ、メッセージの送り主は『なりそこない』以外考えられなかった。だからとりあえず会って、しかし日高に先に会わなければならないからちょっと待ってもらえないか伝えるつもりだった。そのはずだった。
「どうなんだよ『賢者』様よぉ、『なりそこない』のなりすましとは変な事やってくれるなぁ!」
「すみません……」
 しかし現実は違う。目の前にいたのは『なりそこない』ではない。黒いローブを身にまとい、フードで顔を隠している少年――『賢者』が申し訳なさそうに頭を下げた。賢人神社に祀られているクイズの神様が人間に頭を下げると言う光景は、どこか異様な雰囲気を作り出していた。
「しかし、こうでもしないとラサールは来ないと思いました。だから、あなたがかつて『なりそこない』とした約束を利用しました」
「……まぁね」
 あはは、とラサールが笑う。
「俺がもし君に普通に呼ばれただけでここに来るようなヤツだったら、そもそもそれ以前にインテリが何人も倒れた時点で賢人神社に駆け込んでいるだろうな」
「ラサール、あなたはクイズ界がおかしいと気づいていたのに無視していたというのですか?」
「そうだなぁ。そういうことになるな」
 あっさりと返したラサールに、賢者は驚きの表情を受けた。その後ため息を吐き、目を伏せた。
「かつての英雄も冷めたものですね……!」
「あの時は暴走しすぎていたんだよ。冷静になったと言ってくれ。まぁ最初から明確に守りたい何かがあったわけじゃなくて、なりゆきで闘って来た人間なんてそんなもんだよ。この五年で俺の立場も変わったからな。このトシになったらもう、ちょっと段差に躓いて転んだだけで余裕で死ねるからな。危険を冒すのはごめんだってことだ」」
 ラサールに対してどこか怒りをにじませている賢者。それでもなお、ラサールの態度は淡々としたものだった。
「本当は、あなたに頼みたいことがあって来たのですが……どうやら今のあなたは忙しそうですし、何かを頼んだところで引き受けてくれそうにないので、報告だけします」
「おぅ、助かるぜ」
「まず、あなたが待っている『なりそこない』の行方は僕にもわかりません。消えることなく存在しているとは思うのですが……どこにいるかまではわからないのです」
「そっかそっか。そうだよな。どっか行っちゃったもんな。会えたらよかったんだが……」
「次に、今回の事件が誰の仕業なのかについてです」
「お、それは俺も興味あるぞ。最初に聞いておくけど、インテリ達は過労で倒れたとかじゃなくて、明確に事件性があるってのは確かなのか?」
「はい。ある人が賢人神社を訪ねて来て、その事件の話をしてくれました」
「ある人?」
「それは……秘密にして欲しいと頼まれているので、ちょっと」
「五年前にミスを倒したメンバー五人のうちの誰かか?」
「秘密にして欲しいと頼まれているって言ったでしょう」
「さすがにひっかからないか」
「……とにかく、それを受けて僕は秘密裏に被害者のことを調べました。倒れた原因が過労ではないこと、そして事件性があることは間違いないです」
「そうか。あいつらは過労じゃ無かったら何で倒れたんだ?」
「簡単に言えば、彼等は何者かに襲われて、『なにか』を埋め込まれたということですね……ラサール、『黒い欠片』のことは覚えていますか?」
「覚えているよ。五年前、ミスがインテリ達に飲み込ませて、操るために使った道具だ」
「アレにやや似ている『なにか』が彼等の体の中に埋め込まれていることを確認しました。もしあれが『黒い欠片』のようなものだったら取り除く方法はあるのですが……」
「その『なにか』とやらは『黒い欠片』とはまた別の物だから無理ってことか?」
「その通りです。取り除く方法については僕の方で今調べています」
「わかった。それで、みんなに『なにか』を埋め込んだ犯人のことはわかったのか?」
「僕と『愚者』、賢人神社の人達で今一度賢人神社の資料を洗い出したりして関係者の中に犯人がいないか、誰かクイズ界に恨みを持っている者はいないか探したのですが……それらしき人物は特定できませんでした。『なりそこないの仕業』ということもないはずです。もしそうだとしたら、僕にはすぐにわかる」
「そうか、ミスの仕業じゃないってのはちょっと安心かな。あいつがまた悪さしていたら俺のあの言葉は何やったんや! てなるし……え、じゃあ、誰が犯人なんだよ?」
「僕には『クイズ界に強いと恨みを持っていて、かつ生者以外』だろうということしかわからないのです……賢者の子供なのか愚者の子供なのかあるいはそのどちらにも属さないのかすらわからなくて……」
「まとめると、『生きている人間には不可能』で、『賢人神社に深い関係のあるやつも除外』、わかっていることはそれだけってことか」
「その通りです……ごめんなさい」
「い、いや、そこまで落ち込まんでも!」
 うなだれる賢者を横目に、ラサールは腕時計を見た。屋上に来てから十分は経っただろうか。ここに来るまでの時間も考慮したらそろそろ戻らなければ。さすがにカズレーザーと日高は心配するかもしれないぐらいには時間が経っていた。ラサールはどうせ何も関わらない自分がこれ以上賢者の話を聞くのもおかしいので、いったん話を切り上げようと考えた。
「なぁ『賢者』、俺そろそろ帰っていいか? この後カズレーザーと日高君に会う約束があるからさ、このへんにしておきたいんだよね」
「そうですか、じゃあ今日のところは」
「今日のところは……いやいや、俺はもうこの件に関わるつもりはないからもう来なくてええわ! もしなんかあったら、カズレーザーにでも言うといたらええんちゃうか?」
「……」
 冷たく突き放すラサールにショックを受けたのか、『賢者』は悲しそうに目を細めた。そして黒いローブを翻し、一瞬で姿を消した。

去り際に何も言わず、悲しそうな表情を浮かべた『賢者』のことを思い出し、ラサールは心が痛んだ。
(言いすぎたかなぁ……けど、あれぐらい冷たくしておかなきゃ絶対また来るからなぁ。はっきり言っておかねぇとなぁ、今の俺には『賢者』の味方はできないって)
 ズキズキと痛む胸を押さえながら、ラサールは思考し続けた。果たして心が痛んでいるのか、それとも本当に何かの病気で心臓か何かが痛んでいるのかの区別がつかなかった。思い出すのはつい数カ月前――
「あ、ラサールさんいましたよー!」
「本当だ!」
「カズレーザー君に、日高君?」
 屋内へと続く扉が開かれ、二人がラサールに姿を見せた。過去を振り返ることを中断し、ラサールはただ「あ?」とだけと返した。
「すみません、待ち切れずに探しに来ちゃいました!」
「あ、そ、そうか。こっちこそごめん。ちょっと話し込みすぎて、遅くなって……もう用事は終わったからそっち行こうと思っていたとこや」
 ラサールの言葉を聞いて、日高とカズレーザーが顔を見合わせた。そして何やら内緒話を始めた。しばらくして、日高が改めてラサールに顔を向けた。
「……とりあえず、当初の約束通り、会議室に来ていただけませんか。お互い、色々話すべきことがあるでしょうし」
「そうやな」
「サプライズゲストも待っていますんで!」
「え、誰?」
 ラサールの疑問に対して、カズレーザーは満面の笑みを浮かべて答えた。
「それはですね、ラサールさんもよく知っている人ですよ!」
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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