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賢者の子供達 Advent Braves 第十話「Compensate Offense」

第十話「Compensate Offense」
『ねぇ、電話だよ? ねぇ、電話だよ? ねぇ、電話だよ?』
「……あぁ?」
 機械的な音声が何度も聞こえ、志島は目を覚ました。布団の側に置いてあった携帯電話が鳴っているようだった。志島はゆっくりと体を起こし、目をこすりながら携帯電話を手に取り、着信相手を確認しないまま通話ボタンを押した。
『志島、おはようさん!』
「……何やねん、杯馬か。何で寝起きでお前のやかましいダミ声聞かなあかんねん」
 電話の声は杯馬のものだった。低くて、怒ったら怖そうという特徴的な声ですぐにわかった。朝に聞くには重すぎる声し、できることなら聞きたくないような声だと志島は思う。
『何やねんやと? 毎年恒例モーニングコールやがな。ジブンが寝坊せんようにとおもってかけたったんや!』
「はぁ? 何がモーニングコールや。そんなもんいらんわ。こっちはちゃんと目覚まし時計セットして……」
 布団から少し離れた位置の目覚まし時計を手に取り、確認する。時刻は9:00を指していた。
「え?」
 目覚まし時計は9:00にセットしたはずなので、今こそアラームが鳴っていなければおかしい。よく見ると、目覚まし時計のアラームのスイッチがOFFになっていた。恐らく、スイッチを入れるのを忘れていたのだろう。もしこのまま杯馬から電話が来なければ、昼過ぎまでぐっすり寝ていたのは確実だった。
「えー……杯馬さん、助かりました。ありがとうございます」
『どういたしまして!』
 寝る前に目覚まし時計をセットしたはずなのにセットされていなかったり、目覚まし時計の電池が切れて動かなくなるということは、年に一度はあることだった。そういう時に限って杯馬が持ち前のカンの良さを発揮し、朝早くに電話して志島を起こそうとしてくれる。志島は朝早くに電話をされて悪態をつくが、目覚まし時計がセットされていないとわかると杯馬に丁寧にお礼を言う。この一連の流れは二人の間でいわゆる『定食』と言っていいほど当たり前のことと化していた。
「ホンマにありがとう、杯馬」
『おぅ、言うても今日は大切な日なんやろ?』
 今日は志島が田畑藤本の藤本に会いに行く日だった。場所はルミネtheよしもとで、田畑藤本が昼間にステージで漫才を披露した後、空いた時間に藤本から話を聞く予定だった。絶対に遅刻してはならない案件だ。
『絶対遅れるわけにはいかんやろうから、君の遅刻を阻止できてよかったわ。と言うても君のためちゃうで? 君の不手際のせいで同じ事務所の奴らの立場悪なっても困るからなぁ……』
 志島には、杯馬が自分の事のように安心しているように聞こえた。
『ちゃんと起きれたことやし、飯食うて、準備して、他所の芸人さんに失礼のないように頼むで? お前何やらかすかわからんからな。人の心読めても空気読めないところあるし。間違ってもサプライズと称して予告なしにマジックをしたらあかんで? あとなぁ』
「細かいな! そんなアホなことせぇへんわ! 生活指導か、お前は!」
『生活指導ねぇ……君が誰かに迷惑を掛けずに済むんやったら、それでも別にええわ。じゃあ、また今度ネ』
 軽い調子の杯馬の言葉が終わったのと同時に電話が切れた。
(それでも別にええ、なぁ……杯馬はどこまでも、他人のことばかりか)
 人一倍カンが良くて繊細で、とにかくお人好し。他人のことを心配してばかりで、他人がケガしたり大変な目に合わないように常に気を配って手を焼く。例えばマジシャンの備品をチェックして、小さなほころびや破損と言った不具合を見つける。口に出さないけど悩んでいるマジシャンがいれば、悩みを看破して相談にのったり解決の為に力を貸したりする。大がかりな手品のアシスタントをあっさりと引き受ける。時に過保護とさえ思えるほどのことをする。杯馬とはそういう人間だとつくづく志島は思った。一度、「何でそこまでするんや?」と聞いたら、「俺にはわかってまうし、できてまうからですねぇ」と返された。
(それで他のマジシャンに気ぃ使ってジブンの手品披露する機会潰してたら世話ないわ)
 しかし、それが原因で自分の手品の腕を磨く機会を失い、所属事務所であるブックコート専属の雑用係と化している節があった。
(もっと自分のこと考えたらええのに)
 しかし、それを言うと杯馬は決まってこう返すのだ。
『何度も言うけど、俺にはわかってまうし、できてまうんやからしゃーないわ。俺にこういうことさせたくないなら心配かけるようなことすんな! 何の心配もなくなったらさすがの俺も何もせんわ!』
 今まさに、杯馬に心配をかけてしまった志島にとっては耳が痛い言葉だった。

 朝食を食べ、スーツを着て、髪を整える。家でしっかりと支度をしてから志島は田畑藤本が待つルミネtheよしもとを目指した。道中で昼食としてナポリタンを食べてから、本来の待ち合わせ時間よりだいぶ早い時間にルミネtheよしもとに入った。と言うのも、座長が田畑藤本が立つ舞台のチケットをとっていたらしく、志島の家のポストに『せっかくやからネタ、見てあげたら?』という手紙と共に投函されていたのだ。わざわざ自分の家のポストに入れに来た座長を想像して、志島はクスリと思い出し笑いをした。
(ここやな)
 志島はチケットに書かれた番号が割り当てられた座席を見つけ、座った。
(……こうやって劇場でお笑い芸人のネタを見るのはいつ以来やったっけ?)
 少なくともマジシャンになってからはプライベートで劇場に足を運ぶヒマや気力はなかった。営業先で芸人と一緒になることはあるのでその流れでネタを見ると言うことはあったが、正直、自分の仕事で手一杯だったのであまり覚えていない。
(最後に行ったんは、オトンと一緒に行ったNGKか……オトンの実家に帰ったついでに見に行っとこうやって言われて……オカンは面倒やからって断ったけど僕はまぁええか思うて行って……あん時の舞台、誰が出てたっけ? オール阪神・巨人が出てたのは覚えてるけど、あとは若手が多かった気がするし……そういやあん時の新喜劇、誰がやってたっけ?)
 感傷に浸っているうちに、諸注意のアナウンスが聞こえてきた。志島は過去を振り返る事をやめ、舞台へと目を向けた。

(ネタ、おもろかったな……)
 舞台が終わり、志島は席を立った。芸人達のネタを見た後は、妙な高揚感があった。
「志島さんですか?」
「え?」
「お待ちしておりました」
 立ち上がろうとした時にスーツの男性に声を掛けられて少しびっくりしたが、話を聞くと、どうやらルミネのスタッフのようだった。事情も把握しているらしく、藤本の待つ楽屋に案内してもらえることになった。楽屋に向かう道中で何人か芸人とすれ違うが、志島にはよくわからない人ばかりだった。杯馬だったら芸人にも詳しいし、すれ違う度にはしゃいでいたのだろうかと考えた。
 スタッフに案内された楽屋にはすでに藤本がパイプ椅子に座って待っていた。
「藤本さん……おはようございます」
「あ、おはよう。とりあえず、座って」
 志島はテーブルをはさみ、藤本に向かい合う形でパイプ椅子に座った。志島は眼鏡を外すとスーツのポケットにしまった。
「あの……田畑藤本の漫才、とても面白かったです!」
 まず、志島は率直にネタを見た感想を言うことにした。同じ舞台人として感想を伝えることの大切さを知っていたというのもあるが、いきなり本題である重い話を切り出す自信がなかったからだ。
「あ、やっぱり見てくれてたんやね。なんや客席見たら志島君らしき人がおったから「あれ?」って思ってたんやけど」
「見てました! 久々に劇場で芸人さんのネタってみたんですけど、面白かったです!」
「ありがとう」
「それで、本題なんですが……」
「……正直、僕は君と会いたくなかった」
「え?」
 話を切り出そうとした志島を遮るように藤本が呟いた。藤本からは後悔の色が見て取れたような気がした。
「吉本の社員を介して「君と会って欲しい」って話が来た時、正直会いたないって思った。もちろん僕に断る権利はないから、こうして会うたわけやけど……」
「ほんまに、会うてくれてありがとうございます」
「僕に会いに来たのは、『五年前のQさま』のことと関係あるのはわかってる」
「……はい」
「あの時僕のせいで、君の人生が変わってもうたんちゃうかってちょっと思うてたんや。あの時僕が、君を引き込むことに失敗していなければ……!」
「え?」
 スイッチが入ったかのように、藤本の口調が強くなった。変化を察した志島は思わず前のめりになり、藤本に近づいた。
「そうや、僕が反対してもうて、そのスキにあんなことになって」
「藤本さん、待ってください。多分後悔するとこ間違うてると思いますよ」
「だってそうやろ!? あれで君はQさまドタキャンするハメになったでしょ! もし僕があんなことせんかったら君はなんじゃかんじゃで普通にQさま出続けることになってぇ! ひょっとしたらクイズ王なってたのかもしれんでしょ!? なのに僕がその未来潰してぇ!」
「そうですけど、落ち着いてください! あの時の藤本さん間違ったことしてないし、僕は藤本さんのことを責めに来たんやなくて感謝しに来たんですから!」
 さながら先程見た漫才の時のように暴走する藤本。明らかに冷静さを欠いている。志島は藤本の肩をゆすり、落ち着かせようと試みた。
「……感謝?」
「はい」
 ようやくある程度落ち着きを取り戻したらしい藤本が、恐る恐る志島に問いかけた。
「僕も、ずっと悩んでました。あの時、藤本さんにお礼を言えなかったこと」
「う、嘘や……」
「ホンマです。藤本さん、あの時僕を助けてくれてありがとうございます。こんなん言われてもどないしたらええかわからんかもしれませんけど、まずはお互い落ち着いて、整理して、話をしましょう」
「……そうやな。話さなあかんよな」
 藤本が落ち着きを取り戻したことを確認し、改めて志島は切り出した。
「僕が聞きたいのは二つ。一つは「五年前、一体Qさまで何があったんですか?」言うこと、そしてもう一つは「今クイズ番組の世界で起こっていることは、五年前のことと関係があるんですか?」です」
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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