賢者の子供達 Advent Braves 第十一話「Own Action」

第十一話「Own Action」


 五年前、志島はQさまに出るはずだった。テレビ朝日まで行って、控室に入って、あとは時間が来たらスタジオ行って収録するだけだった。
(出演者控室A1はここか)
 しかし、多くの若手インテリ芸能人がまとめられた控室に入った志島を待ち受けていたのは悪夢のような光景だった。
「え?」
 志島が控室に入った瞬間にヒヤリとした空気を感じたこと、若手インテリ芸能人たちの目が紫色に光り、禍々しい剣を構えていたことはハッキリと覚えている。彼等の心の中に強い憎悪や執念が見えたことも、仲間に引き入れるためなのか自分を襲おうとしていたことも鮮明に『わかって』しまった。
「あ、あの」
 あまりにも唐突で異様な光景だったので足が全く動かなかった。声も震えてしまいまともに喋ることができなくなっていた。早くこの場から逃げなければならないとわかっているのに、なにもできなかった。
 若手インテリ芸能人たちが近づいてくる。剣先は目の前にある。剣も気になるが、手に持っている黒い欠片は何なのだろうか。
「ちょっと待って!」
 そんな志島を押し退けて剣先から遠ざけたのは、同じ楽屋にいた藤本だった。
「さすがに引き入れるの早すぎひんか? えーっと、志島君ってクイズ番組初めてやろ?」
 藤本の問いかけの意図はわからなかったが、志島は必死に頷いた。
「そうやんな? なぁ、それやったらせめてもうちょっとクイズ番組に出る回数見極めてからも遅ないんちゃうか? あまり出ないような人引き入れたら、無関係の人間に僕らの事拡散される可能性があがるやろ?」
 そうしてインテリ芸能人を止めてくれたのは同じ楽屋に入っていた藤本だったこともはっきりと覚えている。藤本とて、目は紫色に光っていたのだから結局は自身を引き入れるつもりだとは思うが、当時の志島にとって藤本は救世主だった。
「そうは言うけどもうバレちゃったし、引き入れないと!」
「今ならなんとか、ごまかせへんか!?」
 藤本と他のインテリ芸能人が言い合いになっている隙に志島は冷静になり、楽屋を出る事ができた。追手は来なかった。藤本が止めていてくれたのだろうか。
(こんなとこ、いられない……!)
 そしてスタッフの一人に「怖い人がいるからQさまに出る事をやめる」とだけ告げて、逃げるようにテレビ朝日を出た。逃げるように帰ろうとしていた自分を引き留めようとするスタッフも一部いたが、必死に振り払った。
「志島君、Qさまから逃げて来たってどういうこと!?」
「えーっと――」
 不可解な事に、ドタキャンしたにもかかわらず、座長にその件を問い詰められたことを除けば何にも問題にならなかった。問い詰めて来た座長も、志島から事情を聞いて「普通やったら到底信じられへんけど、ほんまの話なんやろ? それやったら、どうしようもないわな……」と納得していた。
 今思えばQさまサイドはある程度は異常事態を把握していたのかもしれない。あれは逃げてもしょうがないと思われたから、ドタキャンをしても何か請求されなかったのかもしれない。驚くことに、Qさまからギャラは満額振り込まれていた。口止め料なのか、はたまたせめてもの気持ちだったのか、それとも何らかのミスだったのかは未だにわかっていない。聞くのも怖かった。
 それから五年間、志島はあの事件からしばらく経ってから来たQさまのオファーはおろか、他のクイズ番組のオファーも全て断った。また同じような事があったらと思うと怖かったし、そもそも事情があったとはいえドタキャンした番組にどの面を下げて出ればいいのかわからなかったのだ。さすがにもう大丈夫だろうとわかっていても、踏み切ることができずにいた。事情を知っている座長も「そら、しゃーないわ! 断ってええで!」と笑って言うだけだった。
 そうしてオファーを引き受けられるようになるまで、実に五年かかったのだ。みんなが自分の事を忘れるまで待っていたというのも、心の整理がようやくついたというのもあった。

「あの時どんなことがあの控室で起きていたのかはわかりませんけど、藤本さんのおかげでこうして無事でおるんですから。どう考えたってQさま出られないよりも、あんな変なやつらに襲われてた方が嫌ですよ僕は。僕がこうしてここに普通でおられたんは、藤本さんが助けてくれたからです」
「……そうやな。それはそうやな。実はあん時仲間に「何で止めたんだ!」ってさんざん責められて立場悪くなったから、ホンマによかったんかちょっと悩んでて、考えすぎてたかもしれんわ」
「人としては正しいことしたんですよ、藤本さんは。あの時はありがとうございました」
「……その言葉聞けただけで、やっぱり会えてよかったわ。こちらこそありがとう」

「それで知りたいのは五年前、どうして僕たちがあんなことをしたか、やんな?」
「はい」
「信じて貰えるかどうかはわからんけど――」
 ぽつりぽつりと細切れながら、藤本は五年前の事情を説明した。五年前は『なりそこない』と呼ばれる巨大な悪ともいうべき存在に操られていたこと、仲間を増やそうとインテリ達を片っ端から襲っていたこと。あの後に『賢者』に選ばれたクイズ王五人によって『なりそこない』は倒され、クイズ界に平和が訪れた……はずだったこと。
「これが、五年前の顛末や」
「なるほど。本当の事言うてくれてますね」
「信じてくれるんか!?」
「えーっと、信じるて言うより……僕、わかるんですよ。人がウソついてるかどうかって」
 志島から見た藤本に嘘の色は見えなかった。至って誠実で、志島に遠慮したり気を使っている様子が見えるだけだ。
「それは、志島君お得意の読心術ってやつ?」
「そうですね。詳しいことは言えないですし、それこそ「読心術なんて嘘やろ?」て言われたら反論のしようがないですけど……藤本さんのおかげで五年前のことはだいたいわかりました」
「今の話は僕が見て、聞いた範囲の話やから。もし詳しく知りたいんやったら、『賢人神社』ってところに行ったら詳しく書いてある本があるから見てみたらいいよ」
「かしこびとじんじゃ」
「うん。賢い人と書いて、賢人神社やね。『賢者』とか『愚者』とか祀ってるからクイズに関係している人やったらけっこう行ってる神社」
「わかりました。今度、見に行ってみます」
 志島は手帳を取り出し、『賢人神社に本がある』と書き込んだ。

「もう一つ。今クイズ番組の世界で起こっていることは、五年前のことと関係があるんですか?」
 それがもう一つの志島が藤本に聞きたいことだった。答えに困ったのか、藤本はしばし考え込んでいた。
「クイズ番組の参加者が次々過労で倒れている問題のことやろ……どうしてそう思う? あれって偶然なんちゃうか? みんな忙しいんやし」
「いや、偶然やないと僕は思っています……正直、藤本さんも薄々わかっていますよね? あれがホンマに過労で倒れているわけではないこと。それこそ、『なりそこない』ってやつと似たような存在の仕業やと疑ってるでしょ?」
 口調こそは冷静だがどこか威圧感を出している志島に、藤本はたじろいた。
「あのさぁ……志島君ってさ、ホンマにマジシャンなん? 超能力者の間違いちゃうんか?」
「その返答は肯定している言う事でいいんですよね? マジシャンかどうか聞かれると、僕は間違いなくマジシャンですよ。手品しましょうか?」
 志島が胸ポケットからトランプを取り出した。箱の封がまだ切られていないところを見せようとした段階で藤本が止めた。
「いや、いいよ……超能力者みたいに言い当てられてびっくりしただけやから。それで質問の答えやけど、正直、僕には何もわからん。五年前の時かて僕はただの手駒に過ぎなかったから、関係あるかどうかなんてわからん。憶測を言わせてもらうと、あれはただの過労死やない、怪しいとは思う……というのが答えや」
「そうですか……」
「けど、宇治原さんやったら何かわかるかもしれない」
「宇治原さん?」
「あの人は五年前の事件を解決したクイズ王の一人やから色んな事に詳しいし、今でもあの事件のことについても調べているから……もし会えたら、話、聞いてみたらええかもね。Qさまで会えるんやろ?」
「わかりました。ええ話をありがとうございます」

「……僕は正直、志島君を疑っていた」
「え?」
 志島が藤本の答えに満足したところで、藤本が告白する。
「一連の事件の黒幕、とまではいかないけど、君が関わっているんちゃうかと思っていた」
「何でですか?」
「君が来た後に事件が起こり始めたとか、あれだけたくさんの人達が倒れて行く中で、まだ倒れていない人の中に君がいるところとか、ちょっと怪しいって思う事があった。考えられる動機は、自分を追い込んだクイズ界に対する復讐ってところかな? まぁ色々あって疑惑の候補に入れていたと言うだけの話やけどね。せやから今回も、僕に何か仕掛けてくるんやないかと思って色々対策してたんやけど」
「……おもろい推理ですね。けど、「疑っていた」言う事は、僕への疑惑は晴れたんですか?」
「まぁね。君と話しててなんとなく、違うやろうなぁって思えたよ。僕が考えた動機も完全に勘違いやったみたいやし」
「それが僕の演技やとは?」
「思わなかった。全然」
「それやったらよかったです。じゃあ、藤本さんがジブンから手の内明かしてくれたんで、僕も自分なりの考えを喋ります。」
「う、うん」
「まず藤本さんが怪しんでいるように、インテリ芸能人の皆さんがジブンの過労で倒れたわけやなくて、誰かに倒されたんやって考えたとしましょう。そうなると、どうやって倒しているんやって話になるやないですか」
「それは、そうやね」
「例えばそれが『遠い場所から超能力で頭をガーンてやっている』やったら全く対策のしようはないですけど……五年前の『なりそこない』は、そんな手段取っていました?」
「取ってない……ということは、あの事件でインテリを倒してきた奴は、倒すべき対象に近づく必要があるってこと?」
「そういうことです。つまりは事前にその犯人の気配がわかれば、遠くへ逃げればいいってことになる。なるんですけど、相手が不意打ちに近い形でやっているっぽいですからね。そうなると偶然振り返ったりでもしない限り、気づくのは無理でしょうね。もしそいつが来る法則や兆候が何かあれば、逃げられる人も出てくれるのかもしれませんが」
「……宇治原さんと同じこと言うてるな」
「え?」
「宇治原さんも前に「倒れた人全部洗いだして、時間帯とか、場所とか調べ上げたら何か出るかもしれへん」って言うてたんや。もっとも、まだサンプルが少ないからわからんらしいけど……なぁ、もし僕らの方で何かわかったら、志島君に連絡してええか?」
「いいんですか!? そうしてくれるとありがたいです! 僕も、また何か気づいたら連絡しますから!」
 藤本と志島は携帯電話をポケットから取り出し、電話番号を交換した。

「今日はありがとうございました。藤本さん、どうかご無事で」
「志島君も、気を付けてね」
 話を聞き終えた志島は藤本に一礼し、部屋を出ようとした。ドアノブを握ったところで、志島はふと藤本の方へと振り返る。言い忘れていたことを思い出したからだ。
「あ、そうや。藤本さんって、ええ相方さんとコンビ組んでるんですね」
 部屋の隅に置かれた観葉植物をさしながら志島は言った。そして志島は再び藤本に礼をするとすぐに部屋を出て行った。
「マジか……」
 取り残された藤本は呆然とし、頭を抱えた。志島の背中を見送ることはできなかった。
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主にヘキサゴンⅡクイズパレード(特に里田まいのおとぼけ)をネタにしていました。現在はブログでクイズ番組(主にQさま)のSSを書いているよ。pixivやっているよ。twitterもやっているよ右側にあるリンクとかから飛び込めるよ。下の方にメールフォームがあります

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